ニューロン(神経細胞)やシナプスといった言葉は、脳科学に馴染みの無い方でも、脳に関する言葉だと理解されるだろう。
本書は、脳の中でもニューロンではなく、全体の8割以上を占める細胞「グリア」について様々な視点から論じたものである。
高校生物レベルで教わることとして、「ニューロンはシナプスで信号を伝え合うことで、脳と体は繋がっている」と理解されているだろう。
しかし本書では、シナプスを介した情報伝達を、グリアが感知できることを示している。さらには網膜の研究からグリアの一つであるアストロサイトがニューロンのコミュニケーションを調節している。
つまり、「グリアはニューロンを制御する」というこれまでのグリアは単なる梱包材という知見からのパラダイムシフトとなる驚きの発見が記されている。
疾患とグリアの関係としては、クール—病、プリオン病、HIV、ALS、パーキンソン病との関連が述べられており、
統合失調症やうつ病といった精神疾患とグリアとの関係についても記されている。
また昨今話題になっているアルコール依存症とグリアの関係についても。アルコールはニューロンだけでなく、グリアにもダメージを与え、遂には細胞死に至らしめるというから恐ろしい。
しかし皮肉めいて著者が語るには、放射線には脳腫瘍などの癌を引き起こす原因として多くの人は恐怖をかき立てられる一方で、
アルコールや煙草、日焼け、生活用品の有機化合物などは受け入れられているという矛盾した実態があるという指摘には、はっとさせられる。
心とグリアの話題では、例えば我々が喉が渇いたと感じるのは、無意識に脳でグリアのアストロサイトがシナプス調節していることによる。らしい。
またまだ多くのグリアについての知見が記された本書は、これまで日蔭者であったグリアにスポットライトが当てられつつある歴史と現状を把握するのにもってこいの一冊であり、これから脳研究を行いたいという志の若者らをグリア研究へと向かわせる船頭ともなり得るだろう。
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もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス) 新書 – 2018/4/18
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脳の陰の支配者「グリア細胞」とはなにか?脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア」。これまで、電気活動を行うニューロンの間を埋める単なる梱包材とみなされ、軽視されてきた。しかし、近年の研究で、グリア細胞は、ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきた。脳に関する科学者の理解を揺るがす、グリア細胞の役割とは?
脳の陰の支配者「グリア細胞」とはなにか?
脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア」。
しかし、電気活動を行うニューロンの間を埋める
単なる梱包材とみなされ、軽視されてきた。
しかし、近年の研究で、グリア細胞は、
ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきた。
脳に関する科学者の理解を揺るがす、
グリア細胞の役割とは?
脳科学でいま「大変革」が起きている
フィールズの到達した結論は、(略)神経科学の主流であり続けている「ニューロン中心主義」(略)という見解が、まったく不完全で、大きな変更を迫られており、実は「グリアがニューロンを制御する」という主客転倒、あるいはニューロン-グリア両立主義とも呼ぶべきものであるというのだ。これは大いなる驚きであり、つねに難問に挑み続ける多くの挑戦的な神経科学者たちにとっては、容易に看過できない言明である
「訳者あとがき」より
脳の陰の支配者「グリア細胞」とはなにか?
脳内の全細胞の8割以上を占める「グリア」。
しかし、電気活動を行うニューロンの間を埋める
単なる梱包材とみなされ、軽視されてきた。
しかし、近年の研究で、グリア細胞は、
ニューロンの活動を感知し、その動きを制御できることがわかってきた。
脳に関する科学者の理解を揺るがす、
グリア細胞の役割とは?
脳科学でいま「大変革」が起きている
フィールズの到達した結論は、(略)神経科学の主流であり続けている「ニューロン中心主義」(略)という見解が、まったく不完全で、大きな変更を迫られており、実は「グリアがニューロンを制御する」という主客転倒、あるいはニューロン-グリア両立主義とも呼ぶべきものであるというのだ。これは大いなる驚きであり、つねに難問に挑み続ける多くの挑戦的な神経科学者たちにとっては、容易に看過できない言明である
「訳者あとがき」より
- 本の長さ544ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2018/4/18
- 寸法11.3 x 2.1 x 17.5 cm
- ISBN-104065020549
- ISBN-13978-4065020548
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商品の説明
著者について
R・ダグラス・フィールズ
米国国立衛生研究所に属する国立小児保健・人間発達研究所の神経系発達・可塑性部門長。メリーランド大学神経科学・認知科学プログラム客員教授。自身が創刊した学術誌『Neuron Glia Biology』の編集長をはじめ、神経科学分野の数誌で科学顧問や編集委員を務めている。ニューロン-グリア相互作用、脳発達および記憶の細胞機構の世界的権威。
小西 史朗
東京医科歯科大学医学部大学院博士課程修了。同大学医学部講師、三菱化学生命科学研究所室長、早稲田大学教授、徳島文理大学香川薬学部教授・神経科学研究所長などを経て、シンガポール国立Nanyang工科大学生物科学部客員教授。
小松 佳代子
翻訳家。早稲田大学法学部卒業。都市銀行勤務を経て、翻訳家柴田裕之氏に師事し、ビジネス・出版翻訳に携わる。他の訳書に『本の殺人事件簿 ミステリ傑作20選』(共訳)。
米国国立衛生研究所に属する国立小児保健・人間発達研究所の神経系発達・可塑性部門長。メリーランド大学神経科学・認知科学プログラム客員教授。自身が創刊した学術誌『Neuron Glia Biology』の編集長をはじめ、神経科学分野の数誌で科学顧問や編集委員を務めている。ニューロン-グリア相互作用、脳発達および記憶の細胞機構の世界的権威。
小西 史朗
東京医科歯科大学医学部大学院博士課程修了。同大学医学部講師、三菱化学生命科学研究所室長、早稲田大学教授、徳島文理大学香川薬学部教授・神経科学研究所長などを経て、シンガポール国立Nanyang工科大学生物科学部客員教授。
小松 佳代子
翻訳家。早稲田大学法学部卒業。都市銀行勤務を経て、翻訳家柴田裕之氏に師事し、ビジネス・出版翻訳に携わる。他の訳書に『本の殺人事件簿 ミステリ傑作20選』(共訳)。
登録情報
- 出版社 : 講談社 (2018/4/18)
- 発売日 : 2018/4/18
- 言語 : 日本語
- 新書 : 544ページ
- ISBN-10 : 4065020549
- ISBN-13 : 978-4065020548
- 寸法 : 11.3 x 2.1 x 17.5 cm
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2018年5月7日に日本でレビュー済み
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2020年10月23日に日本でレビュー済み
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密度が濃い。この本の知識を知らず、ニューロン(神経細胞)の話ばかりをしていると本質に到達できないと感じた。BLUE BACKSの中では密度の高い、学びの多い本である。
2018年6月9日に日本でレビュー済み
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この本の原著はフィールズという一流の神経科学者によって書かれている。それを、小西という、これまた一流の神経科学者が日本語訳を試みた。ただし、本書は決して専門書ではなく、フィールズが専門家以外の人々(または専門家も含めた人々)に対して、より一般的な理解を促進するために書かれたScientific Americanが下敷きになっているようだ。したがって、専門的に突っ込んだ話が豊富に出てくるが、それを一般の人にも容易に分かるように書かれている、良本だと言える。
私自身も神経科学には興味があり、したがって、シナプス伝達にグリア細胞が積極的に関与していること等は知っていた。しかしながら、本書にあるように、ここまで多くの疾病にグリア細胞が関与している事実には正直驚かされた。とくに興味深く読み込んだのは、慢性疼痛の話である。ここではDRG(後根神経節)ニューロンの役目が詳細に記載されていた。原因がはっきりしないまま、慢性疼痛に悩み続けている患者が数多くいると思う。今後はこのグリア細胞からの影響を考慮した鎮痛剤、またはグリア細胞をターゲットとした統合医療がさらに着目されてくると思った。
ただひとつ(これはもちろん原著に関することなわけであるが)、疾病や痛みの説明の章では、図説が特段に少なくなる。それこそ上述のDRGニューロンのあたりなどには、ポンチ絵があるとさらに理解が深まると思われる。
いずれにしても、この本は神経科学に興味があるすべての読者にお勧めの一冊だと言える。
私自身も神経科学には興味があり、したがって、シナプス伝達にグリア細胞が積極的に関与していること等は知っていた。しかしながら、本書にあるように、ここまで多くの疾病にグリア細胞が関与している事実には正直驚かされた。とくに興味深く読み込んだのは、慢性疼痛の話である。ここではDRG(後根神経節)ニューロンの役目が詳細に記載されていた。原因がはっきりしないまま、慢性疼痛に悩み続けている患者が数多くいると思う。今後はこのグリア細胞からの影響を考慮した鎮痛剤、またはグリア細胞をターゲットとした統合医療がさらに着目されてくると思った。
ただひとつ(これはもちろん原著に関することなわけであるが)、疾病や痛みの説明の章では、図説が特段に少なくなる。それこそ上述のDRGニューロンのあたりなどには、ポンチ絵があるとさらに理解が深まると思われる。
いずれにしても、この本は神経科学に興味があるすべての読者にお勧めの一冊だと言える。
2022年6月10日に日本でレビュー済み
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長い間神経細胞(ニューロン)の支持構造とだけ考えられてきたグリア細胞について実は支持機能としてだけでなく、健常時及び病態においてより積極的な役割を果たしているという本書の中心となる考え方はよく理解出来ます。しかし、本書は悩ましい本です。しっかりした証拠がなく推論に過ぎないのにあたかもそれが一般に認められている事実のように書かれている部分が多すぎるように思えます。私はグリア細胞の専門家ではないのでいちいち反論することは出来ませんが、記述の仕方からそのように読めてしまうのです。
随分以前から判っていたこともあります。例えば末梢神経の運動神経を取り巻いているシュワン細胞とそれを欠くランヴィエの絞輪について研究した田崎一二博士は早くも1939年に活動電位の跳躍伝導(saltatory conduction)の概念を提唱しました。ニューロンとグリア細胞との機能的な関わりを示した最初の知見です。日本の生物物理学と電気生理学のパイオニアである田崎博士の最晩年の姿が本書の最後の方にでているのには感激しました。また、すでに1970年代には血管脳関門の実態が血管内皮基底膜に密着したグリア細胞ではないかということが推測されていました。
ヒトの脳でグリア細胞が細胞数で神経細胞の50倍ほどにのぼる大きな比重を占めていること、栄養素や酸素を供給し、他のニューロンから電気シグナルを絶縁し、病原体を破壊し、死滅したニューロンを除去し、神経栄養因子の合成と分泌を行い、過剰に放出されたカリウムなどのイオンの再取り込みを行い、神経伝達物質のシナプスからの回収を行い、血液脳関門を形成しているなどについては可能性として認められています。また、グリア細胞にもいろいろな神経伝達物質の受容体が存在すること、受容体への伝達物質やリガンドの結合を経てグリア細胞自身もカルシウムなどのイオンの放出を行い、一種のシグナル伝達などの役割を果たしているらしいことなども知られてきています。これらのことについては本書にも述べられています。
一方、アストロサイトがニューロンの活動電位に伴う過剰なカリウムイオン(実際には1回の活動電位発生によるK+のニューロン外への漏出はわずかなものであるが)を吸収して細胞外の濃度調節を行っているとありますが、Na+K+ポンプについて言及がないのはどうしたことでしょうか。また、脳内にも存在するコリン性シナプスにおいて伝達物質アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ酵素についても全く言及のないのも不思議です。さらに、遊離した伝達物質がシナプス前膜に取り込まれ再利用されることについても何も書かれていません。シナプスを囲むグリア細胞が伝達物質やカリウムイオンを「スポンジのように吸収」したとしても、それらはその後どのようになるのでしょうか。このことについても何も書かれておらず疑問です。また、「グリア細胞が神経を調節している」という言葉が何度も出てきますが、どのように調節しているのか、すなわち伝導に影響するのかあるいはシナプス伝達に影響(促進あるいは抑制)するのかなど具体的なことが書かれていません。漠然と「調節している」と言われても理解できないのです。
統合失調症、うつ病、てんかん発作、パーキンソン病などの病態におけるグリア細胞の役割に関しては、それが少数例の知見に基づくものなのか多くの症例で認められているものかということが読んでいて判然としません。悪く言えば著者の希望的推測があたかも一般的な事実のように結論づけられているように感じてしまいます。思考、片頭痛、薬物及びアルコール依存症との関連、思考と記憶における役割などについてはまだまだはっきり言い切れる段階ではないと思われます。また、これらについて従来のメインストリームの考え方(非グリア説)との関係について言及がなされるべきと思います。
アルツハイマー病の原因については多くの論議がなされており、βアミロイドの蓄積については主要な原因の一つとして挙げられていますが結論は出ていない状態だと思います。最近でも、βアミロイドを除去するといわれた新薬が臨床試験で有効性を証明できず撤退しました。βアミロイド蓄積とミクログリア及びアストロサイトとの関連についての関わりも指摘されていますがこれからの研究段階ではないでしょうか。恐らくこれらの病態や高次脳機能にはDNA転写をはじめ多くの複雑な要素が関与しているのではないかと思われます。そのような多様な可能性を考えずにグリア細胞によると単純化して決めつけるのには少し違和感があります。
私は本書の内容を総て否定するつもりはありません。しかし、まだ可能性としてしか提示できないことを結論的に「こうだ」と断定してしまうような書き方は読む者に疑問を生じさせるものです。本書に記載されている実験や観察、あるいは臨床的知見などについての記述は漠然としたものが多く、しっかりしたエビデンスとして示されているのが比較的少ないのではないかと感じます。
また、電気生理学の基礎について著者の知識は全く乏しいと思います。静止電位や活動電位の成り立ちについても基礎的知識がないのではないでしょうか。したがって、何を言わんとしているのか判然としない部分が多くみられます。自分の専門でない分野については専門家に原稿段階でよくチェックしてもらったらよいのではないでしょうか。
本書の英語版が出版されたのは2009年で、13年も昔のことになります。その間にグリア細胞についての研究は随分進んでいると思います。あまり注目されなかったグリア細胞についての研究の嚆矢となった著者の寄与については大いに評価されるべきだと思います。しかし、本書に関してはグリア細胞の役割についてのPR的側面が出過ぎなのではないでしょうか。
記憶や思考という脳の高度な活動についてはニューロン回路において神経インパルスがぐるぐる回っているというような現在の単純な解釈では説明できないように思います。多分、グリア細胞も含めたもっと多くの仕組みが複雑に関わっているのでしょう。今後の研究を期待したいところです。
なお、「もうひとつの脳」という本書のタイトルはあたかもニューロン網とは別にグリア網という系があって独立に機能しているという感じを受けます。私は矢張り中心となるのは活動電位の伝導と伝達に関わるニューロンであってグリア細胞はそれを支える機構であると考えています。本書は著者のグリアに対する思い入れが出過ぎでおり、一種のプロパガンダ本になっています。
私はグリア系を神経系と独立した存在として捉えるのではなく神経機能に対していかに重要な補助を行っているかとの観点で論じるべきだと思っています。そのためにはグリア細胞の研究者はまず神経細胞あるいは神経系全体についての高度な知識を持っているべきなのですが、本書の著者にはその点が欠けていると感じます。それが無理ということであれば神経系の研究者との共同研究というのも大切な手段ではないでしょうか。
それにしても、マリアン・ダイアモンド博士は何のためにアインシュタインの脳切片を調べたのでしょうか。他の人の脳に比べてグリア細胞が多かったとしても、言えるのは「たまたまアインシュタインの脳の極めて一部の組織を調べたらグリア細胞が多かった」という事実だけであり、天才と脳のグリア細胞数との相関を言いたいのであれば、例えば50人ずつの天才と私のような凡人の脳の決められた部位の切片を二重盲検法で比較し、統計的な有意差のあることを証明しなくてはなりません。それはまず無理ですね。彼女の単なる好奇心から調べてみただけのことなのでしょうか。怖いのは一例報告が往々にして普遍的な事実として独り歩きすることです。
500頁にも及ぶ本書を読み切るのに苦労しました。こまか過ぎる挿話の羅列は適当にカットして、エビデンスに基づく事実を(推測や可能性、あるいはまだ議論の余地のある段階のものだったらそのようにはっきり書いて)もっとコンパクトにまとめてもらえたらよかったのにと思います。
随分以前から判っていたこともあります。例えば末梢神経の運動神経を取り巻いているシュワン細胞とそれを欠くランヴィエの絞輪について研究した田崎一二博士は早くも1939年に活動電位の跳躍伝導(saltatory conduction)の概念を提唱しました。ニューロンとグリア細胞との機能的な関わりを示した最初の知見です。日本の生物物理学と電気生理学のパイオニアである田崎博士の最晩年の姿が本書の最後の方にでているのには感激しました。また、すでに1970年代には血管脳関門の実態が血管内皮基底膜に密着したグリア細胞ではないかということが推測されていました。
ヒトの脳でグリア細胞が細胞数で神経細胞の50倍ほどにのぼる大きな比重を占めていること、栄養素や酸素を供給し、他のニューロンから電気シグナルを絶縁し、病原体を破壊し、死滅したニューロンを除去し、神経栄養因子の合成と分泌を行い、過剰に放出されたカリウムなどのイオンの再取り込みを行い、神経伝達物質のシナプスからの回収を行い、血液脳関門を形成しているなどについては可能性として認められています。また、グリア細胞にもいろいろな神経伝達物質の受容体が存在すること、受容体への伝達物質やリガンドの結合を経てグリア細胞自身もカルシウムなどのイオンの放出を行い、一種のシグナル伝達などの役割を果たしているらしいことなども知られてきています。これらのことについては本書にも述べられています。
一方、アストロサイトがニューロンの活動電位に伴う過剰なカリウムイオン(実際には1回の活動電位発生によるK+のニューロン外への漏出はわずかなものであるが)を吸収して細胞外の濃度調節を行っているとありますが、Na+K+ポンプについて言及がないのはどうしたことでしょうか。また、脳内にも存在するコリン性シナプスにおいて伝達物質アセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ酵素についても全く言及のないのも不思議です。さらに、遊離した伝達物質がシナプス前膜に取り込まれ再利用されることについても何も書かれていません。シナプスを囲むグリア細胞が伝達物質やカリウムイオンを「スポンジのように吸収」したとしても、それらはその後どのようになるのでしょうか。このことについても何も書かれておらず疑問です。また、「グリア細胞が神経を調節している」という言葉が何度も出てきますが、どのように調節しているのか、すなわち伝導に影響するのかあるいはシナプス伝達に影響(促進あるいは抑制)するのかなど具体的なことが書かれていません。漠然と「調節している」と言われても理解できないのです。
統合失調症、うつ病、てんかん発作、パーキンソン病などの病態におけるグリア細胞の役割に関しては、それが少数例の知見に基づくものなのか多くの症例で認められているものかということが読んでいて判然としません。悪く言えば著者の希望的推測があたかも一般的な事実のように結論づけられているように感じてしまいます。思考、片頭痛、薬物及びアルコール依存症との関連、思考と記憶における役割などについてはまだまだはっきり言い切れる段階ではないと思われます。また、これらについて従来のメインストリームの考え方(非グリア説)との関係について言及がなされるべきと思います。
アルツハイマー病の原因については多くの論議がなされており、βアミロイドの蓄積については主要な原因の一つとして挙げられていますが結論は出ていない状態だと思います。最近でも、βアミロイドを除去するといわれた新薬が臨床試験で有効性を証明できず撤退しました。βアミロイド蓄積とミクログリア及びアストロサイトとの関連についての関わりも指摘されていますがこれからの研究段階ではないでしょうか。恐らくこれらの病態や高次脳機能にはDNA転写をはじめ多くの複雑な要素が関与しているのではないかと思われます。そのような多様な可能性を考えずにグリア細胞によると単純化して決めつけるのには少し違和感があります。
私は本書の内容を総て否定するつもりはありません。しかし、まだ可能性としてしか提示できないことを結論的に「こうだ」と断定してしまうような書き方は読む者に疑問を生じさせるものです。本書に記載されている実験や観察、あるいは臨床的知見などについての記述は漠然としたものが多く、しっかりしたエビデンスとして示されているのが比較的少ないのではないかと感じます。
また、電気生理学の基礎について著者の知識は全く乏しいと思います。静止電位や活動電位の成り立ちについても基礎的知識がないのではないでしょうか。したがって、何を言わんとしているのか判然としない部分が多くみられます。自分の専門でない分野については専門家に原稿段階でよくチェックしてもらったらよいのではないでしょうか。
本書の英語版が出版されたのは2009年で、13年も昔のことになります。その間にグリア細胞についての研究は随分進んでいると思います。あまり注目されなかったグリア細胞についての研究の嚆矢となった著者の寄与については大いに評価されるべきだと思います。しかし、本書に関してはグリア細胞の役割についてのPR的側面が出過ぎなのではないでしょうか。
記憶や思考という脳の高度な活動についてはニューロン回路において神経インパルスがぐるぐる回っているというような現在の単純な解釈では説明できないように思います。多分、グリア細胞も含めたもっと多くの仕組みが複雑に関わっているのでしょう。今後の研究を期待したいところです。
なお、「もうひとつの脳」という本書のタイトルはあたかもニューロン網とは別にグリア網という系があって独立に機能しているという感じを受けます。私は矢張り中心となるのは活動電位の伝導と伝達に関わるニューロンであってグリア細胞はそれを支える機構であると考えています。本書は著者のグリアに対する思い入れが出過ぎでおり、一種のプロパガンダ本になっています。
私はグリア系を神経系と独立した存在として捉えるのではなく神経機能に対していかに重要な補助を行っているかとの観点で論じるべきだと思っています。そのためにはグリア細胞の研究者はまず神経細胞あるいは神経系全体についての高度な知識を持っているべきなのですが、本書の著者にはその点が欠けていると感じます。それが無理ということであれば神経系の研究者との共同研究というのも大切な手段ではないでしょうか。
それにしても、マリアン・ダイアモンド博士は何のためにアインシュタインの脳切片を調べたのでしょうか。他の人の脳に比べてグリア細胞が多かったとしても、言えるのは「たまたまアインシュタインの脳の極めて一部の組織を調べたらグリア細胞が多かった」という事実だけであり、天才と脳のグリア細胞数との相関を言いたいのであれば、例えば50人ずつの天才と私のような凡人の脳の決められた部位の切片を二重盲検法で比較し、統計的な有意差のあることを証明しなくてはなりません。それはまず無理ですね。彼女の単なる好奇心から調べてみただけのことなのでしょうか。怖いのは一例報告が往々にして普遍的な事実として独り歩きすることです。
500頁にも及ぶ本書を読み切るのに苦労しました。こまか過ぎる挿話の羅列は適当にカットして、エビデンスに基づく事実を(推測や可能性、あるいはまだ議論の余地のある段階のものだったらそのようにはっきり書いて)もっとコンパクトにまとめてもらえたらよかったのにと思います。
2018年10月9日に日本でレビュー済み
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非常に難しい概念、それもこれまでの常識を大きく覆す、実証された真実を丁寧に、説明されており、脳科学の最先端を俯瞰できた気がする。サーファーの脊髄損傷の時系列的実況は、圧巻で 、よく耳にする事故とその障害の大きさと、その後遺症からの回復についての医学の現状と未来を理解する為に最高の教材になっている。
このような深い脳科学の書を読了出来たことには、自分でも不思議に思うが、著者の深い知性と教養に引き込まれたと共に、沢山の歴史的発見の紹介の巧みさに、途中で放棄出来ない魅力に溢れた作品である事は 、間違いない。AI、人工知能が話題にのぼる昨今、この書の紹介する知識は、必須の基本かと思える。
このような深い脳科学の書を読了出来たことには、自分でも不思議に思うが、著者の深い知性と教養に引き込まれたと共に、沢山の歴史的発見の紹介の巧みさに、途中で放棄出来ない魅力に溢れた作品である事は 、間違いない。AI、人工知能が話題にのぼる昨今、この書の紹介する知識は、必須の基本かと思える。
2019年9月27日に日本でレビュー済み
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ニューロンについては簡単に習ったことがあるが、グリアについては知らないことだらけ。読んでて驚きの連続でした。
2018年12月4日に日本でレビュー済み
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本書が覆すニューロン中心の脳生理学は、文科系の私は今まで信じ切っていた。あるいは、その考えが脳を考える大前提だと思い込んでいた。 本書で、全く新しい扉が開かれつつあることを知り、身の回りの脳に関係する事、或はゲーム依存などの解明にも役立つであろうことを予感した。 行動経済学等に興味がある人も、少しアプローチを変えて本書を読むと、思考に厚みが増すのではないか。 科学者の思考とはこうした丁寧な思考の積み重ねなのかと感心しながら読み終えた。