ムーミン初心者です。『文学効能事典』の筆者が、読書セラピーの教材としてムーミンをよく使うとのことで、『彗星』ほど暗くなさそうなこちらを手に取ってみた。
派手さはないのだけど、読み進めていくと、内向的な登場人物たちの複雑な心境や行動をうまく描き出しており、日本人の私も共感しやすかった。誰も起きてくれない中で、一人冬眠から目覚めてしまった孤独感。そして、おひさまは二度と上らないのではないかという恐怖にさいなまれつつも、得体のしれない冬や雪に対するムーミントロールの見方が少しずつ変わっていくのだ。
後半、得体のしれない冬とは対極的な性格で、明朗で快活な（しかし、ちょっとうざい）ヘムレンさんが、そのような性格であるがゆえに、内向的で似た者同士かたまったみんなに煙たがれる。ムーミントロールも一旦はヘムレンさんを追い出す計画に加担する。でもムーミントロールは、仲間外れにしてはいけないという罪悪感もあり、ちょっと自分の殻を破って、ヘムレンさんに勇気を出して手を差し伸べる。（その時にムーミントロールがヘムレンさんに言う、苦し紛れのセリフに爆笑！）
終わらない冬も、やまない雨もない。いつかは春がやってくる。だから受動的に、冬をひたすら耐えて待つことが大事。けどムーミントロールがちょっとだけがんばって成長したことが、心の冬の終わりと春の到来を促したようにも見えるのだ。
おしゃまさんのセリフも哲学的。オーロラは、本当にあるものなのか？それともあるように見えるだけなのか？白黒つけなくても、あいまいなまま受け止めよう。怖い冬だって、とりあえず耐えてみよう。この本全体が、最近よく言われるネガティブ・ケイパビリティについてのようにも思える。
そして冬は誰もいないのかと思いきや、春夏秋の明るい季節には居場所がなかったような内気な人たちが、集まっていた。どんな人にでも、主人公になれる時間や場所がある。いや、そういう世界にしたいよね。そんな素敵なメッセージ。
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