昭和を代表する作詞家、阿久悠。あらゆる人気歌手を世に出したテレビ番組『スター誕生!』の仕掛け人の一人、稀代のアイドルことピンク・レディーを手がけ、『津軽海峡・冬景色』など現代に残した名歌詞は数えきれない。
僕は音楽が特別好きなわけではない。昭和歌謡もたまにテレビで耳にするくらいだ。それでも名前は知っているしずっと頭の片隅で気になっていた存在だ。
気になっていた理由は、彼が以前語ってた言葉にある。たしか「時代とキャッチボールして飢えを満たす」みたいな意味だったと思う。はっきりと記憶にはない。なんておもしろい例えを使った素敵な表現なんだろうと胸に残った。
この本は作家の重松清さんが書いた阿久悠の評伝である。僕が素敵な表現だと思った阿久さんの言葉は1章で作曲家の都倉俊一さんによって語られていた。
"「僕は、ある意味では阿久さんは静かな社会学者だったんではないかな、と思うんです。数限りないアンテナを張りながら、時代のにおいとか、移りゆく時代の息吹きとかを、自分の美学と合わせて、作品にした。社会や大衆がどういうものを要求しているかということを、ほんとうにつぶさに分析して作品にあらわした。阿久さんは、それを『時代の飢餓を満たす』と呼んでいました。『時代はいつも飢えてるんだ。その飢えている時代に対して僕は言葉を投げかけて、その飢えを満たすんだ』と」"
(重松清『阿久悠と、その時代』p25)
「時代の飢え」を僕なりに解釈すると、人々が無意識に求めている何かである。現代ではそれを需要やニーズと呼ぶこともある。
阿久さんはそこに「飢え」や「飢餓」という言葉を当てはめた。人々がとても求めてる感じが出るし、言葉が強烈さがある。でも洒落た表現にも感じさせる。かっこつけて使いたくなる言葉だ。
でも現代に「飢え」という言葉を使ってもピンと来ない気がする。戦時中の国家総動員体制や戦後すぐの焼け野原で貧しい時代を経験した人がほとんどだった時代では「飢え」は身近であり、強く刺さる言葉だった。この言葉を使った阿久さん自身もそういった経験と身近だったから思い浮かんだのかもしれない。
淡路島で鬱屈した日常を過ごした10代、東京へ進学し広告代理店で働くようになった20代、作詞家として羽ばたいた30代、そして死まで。阿久さんの著書や重松さんの解釈を軸にして作詞家・阿久悠の人生が浮かび上がってくる。彼が手がけた曲を知らなくても魅力的な人物に思える内容だ。

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星をつくった男 阿久悠と、その時代 (講談社文庫) 文庫 – 2012/9/14
重松 清
(著)
言葉なのだ。阿久悠がなによりも信じ、畏れ、愛してきたものは、言葉だった。
昭和の歌謡界の巨人・阿久悠に挑む傑作ノンフィクション
伝説的アイドル、ピンク・レディーを手掛け、『津軽海峡・冬景色』をはじめ、生涯に五千作におよぶ歌をのこした作詞家阿久悠。敗戦で価値観の大転換を経験した少年が、時代を食らい、歌謡界の巨人へと駆け上がった軌跡、最期までこだわり続けた「言葉」への執念――。丹念な取材を元に綴られた傑作ノンフィクション。
昭和の歌謡界の巨人・阿久悠に挑む傑作ノンフィクション
伝説的アイドル、ピンク・レディーを手掛け、『津軽海峡・冬景色』をはじめ、生涯に五千作におよぶ歌をのこした作詞家阿久悠。敗戦で価値観の大転換を経験した少年が、時代を食らい、歌謡界の巨人へと駆け上がった軌跡、最期までこだわり続けた「言葉」への執念――。丹念な取材を元に綴られた傑作ノンフィクション。
- 本の長さ384ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2012/9/14
- ISBN-104062773627
- ISBN-13978-4062773621
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2012/9/14)
- 発売日 : 2012/9/14
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 384ページ
- ISBN-10 : 4062773627
- ISBN-13 : 978-4062773621
- Amazon 売れ筋ランキング: - 528,411位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 7,763位講談社文庫
- カスタマーレビュー:
著者について
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1963(昭和38)年、岡山県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。
出版社勤務を経て執筆活動に入る。1991(平成3)年、『ビフォア・ラン』(ベストセラーズ、現在は幻冬舎文庫)でデビュー。
著書は他に、『ナイフ』(新潮文庫、坪田譲治文学賞)、『定年ゴジラ』(講談社文庫)、『エイジ』(新潮文庫、山本周五郎賞)、『ビタミンF』(新潮文庫、直木賞)、『隣人』(講談社、講談社文庫で改題『世紀末の隣人』)、『流星ワゴン』(講談社文庫)、『きよしこ』(新潮文庫)、『トワイライト』(文春文庫)、『疾走』(角川文庫)、『その日のまえに』(文春文庫)、『カシオペアの丘で』(講談社文庫)、『とんび』(角川書店)、『十字架』(講談社、吉川英治文学賞)など多数。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年7月23日に日本でレビュー済み
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阿久悠という天才について書かれた書籍。阿久悠本人が大学時代、サラリーマン時代、スター誕生について書かれた書籍は何冊か読んだが、彼を描いた本は読んだ事はなかった
昭和、いややはり彼は昭和の天才だと思う。
昭和、いややはり彼は昭和の天才だと思う。
2023年9月11日に日本でレビュー済み
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阿久悠の“夢を食った男たち「スター誕生」と歌謡曲黄金の70年代”を読んだ方ならこの本は不要だ。
本来ならドキュメンタリー形式で読みたいのだが、重松清氏は自らが作家であるせいか無闇に持って回った書き方で文字数が多くなっている。最初の『津軽海峡・冬景色』の章は読み飛ばしても差し支えない。
本来ならドキュメンタリー形式で読みたいのだが、重松清氏は自らが作家であるせいか無闇に持って回った書き方で文字数が多くなっている。最初の『津軽海峡・冬景色』の章は読み飛ばしても差し支えない。
2023年7月28日に日本でレビュー済み
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注文後、すぐに届きました。商品も美品で、丁寧に梱包されていて、とても満足です。
2020年1月1日に日本でレビュー済み
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1970年代は歌謡曲がその時代を映し出していた。時代と阿久悠たち巨人たちがその全盛期を作り出した。今当時の熱気が日本に無いのが寂しいところ。
2017年9月22日に日本でレビュー済み
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2007-08と尊敬する人が3人亡くなった。緒形拳、筑紫哲也、そして阿久悠である。
3人ともアナログな生き方を貫いている安心感があっただけに、そういう人たちがいなく
なるのは残念だった。
3人の中で最も早く亡くなった阿久氏が、今年生誕80年ということで、改めてその生涯
を辿りたくなり本書を手に取った。さまざまな資料に当たり、人に会いなどして作っただけ
に説得力があり、文体も読みやすく、思わぬ指摘も随所にあって、面白かった。正直、
氏(重松)の書く小説は図式的で心がこもっていないため好きではないが、この本は評価
できる。事実に基づいて書く方が力を発揮できるということか?
さて、阿久氏の人生を辿っていて気づくのは、その時々で全力だったということだ。小説家
を志しながらも小さな広告代理店で懸命に働く中でマーケティングの感性を磨き、売れる曲
が書ける作詞家になれた。そして、小説を書く機会に恵まれ、最後は時代への違和感からか
時事評論へ向かう。生涯、物書き(物打ちでなく)として現役を貫いた。
ただ、意外だったのは、彼が作詞家として活躍したのは70年代までだったということだ。それ
以降、小説家に転じていくが、「時代の飢餓を満たす」ことをモットーとする氏は、なぜそれ以降
もそうしなかったのだろう? 歌謡曲というあらゆる世代に通じる音楽を目指す氏にとって、個人
で音楽を聞く時代はお手上げだったということか?
小説家を志していた氏は作詞家で成功したものの、小説家としてはヒットに恵まれなかった。
3分でドラマを描ける人間に長い物語を書く必然性がなかったとか、「常に、誰かになにかを語り
かけてきた」氏にとって、小説は受け手の姿がつかみづらかったとか、氏の言葉はメロディーに
のせ、人に歌ってもらって初めて活きるものだったとか、いろいろ考えられる。
就きたい職業でない仕事で成功することは間々あることだが、氏の場合も己の欲求に関係なく、
生まれ持った資質が作詞家だったということだろう。優れた小説家でも優れた作詞家になれない
ように、優れた言葉の使い手なら何でも書けるというわけにいくまい。
氏には作詞家として、デジタル時代の飢餓を満たす方法を示してもらいたかった。
3人ともアナログな生き方を貫いている安心感があっただけに、そういう人たちがいなく
なるのは残念だった。
3人の中で最も早く亡くなった阿久氏が、今年生誕80年ということで、改めてその生涯
を辿りたくなり本書を手に取った。さまざまな資料に当たり、人に会いなどして作っただけ
に説得力があり、文体も読みやすく、思わぬ指摘も随所にあって、面白かった。正直、
氏(重松)の書く小説は図式的で心がこもっていないため好きではないが、この本は評価
できる。事実に基づいて書く方が力を発揮できるということか?
さて、阿久氏の人生を辿っていて気づくのは、その時々で全力だったということだ。小説家
を志しながらも小さな広告代理店で懸命に働く中でマーケティングの感性を磨き、売れる曲
が書ける作詞家になれた。そして、小説を書く機会に恵まれ、最後は時代への違和感からか
時事評論へ向かう。生涯、物書き(物打ちでなく)として現役を貫いた。
ただ、意外だったのは、彼が作詞家として活躍したのは70年代までだったということだ。それ
以降、小説家に転じていくが、「時代の飢餓を満たす」ことをモットーとする氏は、なぜそれ以降
もそうしなかったのだろう? 歌謡曲というあらゆる世代に通じる音楽を目指す氏にとって、個人
で音楽を聞く時代はお手上げだったということか?
小説家を志していた氏は作詞家で成功したものの、小説家としてはヒットに恵まれなかった。
3分でドラマを描ける人間に長い物語を書く必然性がなかったとか、「常に、誰かになにかを語り
かけてきた」氏にとって、小説は受け手の姿がつかみづらかったとか、氏の言葉はメロディーに
のせ、人に歌ってもらって初めて活きるものだったとか、いろいろ考えられる。
就きたい職業でない仕事で成功することは間々あることだが、氏の場合も己の欲求に関係なく、
生まれ持った資質が作詞家だったということだろう。優れた小説家でも優れた作詞家になれない
ように、優れた言葉の使い手なら何でも書けるというわけにいくまい。
氏には作詞家として、デジタル時代の飢餓を満たす方法を示してもらいたかった。
2014年9月24日に日本でレビュー済み
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昭和の作詞家阿久悠に関する本
重松さんというと、児童文学や、流星ワゴンとかの小説が際立つ方なんですが
こんな作品も書かれるんですね。驚きました
阿久悠をたどってゆく作品になります。
構成は、プロローグに代表作の一つでもある「津軽海峡・冬景色」を実体験し
1章 少年時代の検証
2章 色々な経緯の後の阿久悠の誕生まで
3章 作詞家に関する環境
4章 どうやって売れっ子作詞家に変わっていったのか
5章 スター誕生関連
6章 ピンクレディから、阿久悠の時代の衰退
7章 小説執筆と父の考え方
8章 阿久悠に流れる「やせがまん」哲学
9章 そして昭和の巨星が墜ちるまで
と表現力のない私が書いているので語弊のある要約ですが時代の流れに沿って
文庫本でも350ページの大作になっています。
スター誕生 ピンクレディ そして沢田健二などと同じ時代を過ごした
私としては、ここまで調べ上げた阿久悠の伝記はすごいと思います。
また、調べ尽くした結果から生まれる時代感はとても腹に落ちる内容で
とても気持ちよく読みました。
少し物足りない気もしますが、そこまで書き込むと多分この倍の厚さに
なって読み切れないほど、しっかり詰まった作品、阿久悠って
こんな実像だったんだと目に浮かぶような良い本でした。
重松さんというと、児童文学や、流星ワゴンとかの小説が際立つ方なんですが
こんな作品も書かれるんですね。驚きました
阿久悠をたどってゆく作品になります。
構成は、プロローグに代表作の一つでもある「津軽海峡・冬景色」を実体験し
1章 少年時代の検証
2章 色々な経緯の後の阿久悠の誕生まで
3章 作詞家に関する環境
4章 どうやって売れっ子作詞家に変わっていったのか
5章 スター誕生関連
6章 ピンクレディから、阿久悠の時代の衰退
7章 小説執筆と父の考え方
8章 阿久悠に流れる「やせがまん」哲学
9章 そして昭和の巨星が墜ちるまで
と表現力のない私が書いているので語弊のある要約ですが時代の流れに沿って
文庫本でも350ページの大作になっています。
スター誕生 ピンクレディ そして沢田健二などと同じ時代を過ごした
私としては、ここまで調べ上げた阿久悠の伝記はすごいと思います。
また、調べ尽くした結果から生まれる時代感はとても腹に落ちる内容で
とても気持ちよく読みました。
少し物足りない気もしますが、そこまで書き込むと多分この倍の厚さに
なって読み切れないほど、しっかり詰まった作品、阿久悠って
こんな実像だったんだと目に浮かぶような良い本でした。
2013年6月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
殆ど使用感もなく。楽しく読ませて頂いてます。今後も利用したいです。