私は普通のサラリーマンだが、理系なので物理学や数学の分野で新刊が出ると、手を出して読むことが多い。面白い場合もあれば、読むのが途中で嫌になることもあるが、本書は久しぶりに寝る間を惜しんでも良いほどの価値があるものだった。
タイトルは難解だが、気にしなくても良い。内容は専門家でなくとも分かるように工夫されている。
本書のテーマは、物理学の恐らく最も基本的な法則である、重力は物体の距離の逆二乗に比例するという法則が、実は0.1ミリメートル以下の短い距離では当てはまらないかもしれず、その理由は小さな異次元空間があるためだという仮説を検証しようというものである。
小さな異次元空間が、原子ぐらいのサイズだと言われると「そんなこともあるかもな」程度の反応だろうが、ミリメートルの単位となると話が違ってくる。肉眼で見える大きさではないか。そんな仮説があること自体驚きなのだが、まともな物理学者たちがそれを正しいかも知れないと考えていることにもっと驚く。私の頭の中では、小さな虫達にとっては我々の知っている重力法則は非常識であり、さらには異次元空間を体感しているのかもしれないなどという空想が働いてしまう。
著者は、そんな大胆な仮説を確かめるため、実験室の片すみに置けるような小さな手作りの装置を使い、異次元空間の存在を探っていると言うのだ。その手作りの装置がまた秀逸なアイデアなのである。
実験物理学の世界は、巨額の予算と巨大なチームを必要とする大型加速器に話題が集まり、実際に大きな成果が得られているのだが、あまりに大仕掛けになりすぎたがゆえに、研究者の個性が発揮されづらい世界になりつつあるらしい。
一方、かつてのキャベンディッシュやラザフォード、ミリカン、マイケルソンなどといった実験物理学者たちは、たぶん小さな部屋の片すみで、素朴だが緻密な計算のもとに手作りした実験装置を駆使して偉大な業績を残した。
本書を読むと、物理学者というのは、そんな過去の素朴な実験スタイルに憧れを持つものなのだろうかとも思う。
本書の前半では、空間、重力、4つの基本的な力に関する一般論や歴史的経緯が説明される。この部分は物理学が好きではない読者には少し辛抱が必要かもしれないが、後半につながる重要な布石である。読み飛ばす訳にもいかず、じっとページを繰ろう。
後半になると筆致が変わる。余剰次元とそれを探る著者の具体的実験の様子が活き活きと動き出す。世界中の同じ目的を持つ物理学者達が知恵を絞ったさまざまな形の微小重力測定装置の特徴が丁寧に説明される。今まさに産まれたばかりの研究成果が紹介される。著者の興奮が伝わってくる。読んでいる方は、それで次はどうなるのか、とページをめくらずにいられない。
物理学が新たな地平を開拓し、異次元からの微かなメッセージを聞くことができたとき、人類はいったいどんな進化をするのだろう。ひさびさに科学少年少女たちをワクワクさせる本に出会えたと思う。もちろん大人も充分楽しめる。
「新しい装置は新しい物理を生む」というのは著者の恩師の言葉として文中で紹介されている。本書は、それを信じて新たな知の宝石を掘り当てようと言う若い物理学者の決意表明書だと感じさせた。
願わくは、著者の実体験に根ざした、実験装置の作成から、その手法、失敗や成功の体験など、さらなる迫力を持って紹介した続編を読んでみたい。最近は政治哲学の本が流行っているようだが、本書のような科学からの哲学的アプローチに浸ってみることもぜひお勧めする。

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「余剰次元」と逆二乗則の破れ―我々の世界は本当に三次元か? (ブルーバックス) 新書 – 2011/2/22
村田 次郎
(著)
万有引力の法則を検証し、高次元宇宙を探し出す。ミクロの世界では重力が存在するのか、じつはまったく確認されていない。もし実験で万有引力の法則からのずれが見つかれば、それは重力が余剰次元にも伝播していることを示唆し、四つの力の統一という現代物理学最大の目標に向けた突破口となる。余剰次元探索の最前線に立つ著者が最新の考え方と実験の現場を紹介する。(ブルーバックス・2011年2月刊)
万有引力の法則が近距離で破られる!? 宇宙の真の姿に迫る余剰次元理論とは何か
万有引力の法則を検証し、高次元宇宙を探し出す
ミクロの世界では重力が存在するのか、じつはまったく確認されていない。もし実験で万有引力の法則からのずれが見つかれば、それは重力が余剰次元にも伝播していることを示唆し、四つの力の統一という現代物理学最大の目標に向けた突破口となる。余剰次元探索の最前線に立つ著者が最新の考え方と実験の現場を紹介する。
高次元宇宙とはいったいどんな姿をしているのだろうか? 三次元に加えて新たに存在が考えられている「余剰次元」にそった方向には、宇宙の大きさは0.1ミリメートル程度であろうという理論が1998年に発表され、世界中の物理学者がひっくり返った。その大きさがたった0.1ミリメートルしかないということにではない。0.1ミリメートルもありそうだ、ということに驚いたのだ!――<「はじめに」より>
万有引力の法則が近距離で破られる!? 宇宙の真の姿に迫る余剰次元理論とは何か
万有引力の法則を検証し、高次元宇宙を探し出す
ミクロの世界では重力が存在するのか、じつはまったく確認されていない。もし実験で万有引力の法則からのずれが見つかれば、それは重力が余剰次元にも伝播していることを示唆し、四つの力の統一という現代物理学最大の目標に向けた突破口となる。余剰次元探索の最前線に立つ著者が最新の考え方と実験の現場を紹介する。
高次元宇宙とはいったいどんな姿をしているのだろうか? 三次元に加えて新たに存在が考えられている「余剰次元」にそった方向には、宇宙の大きさは0.1ミリメートル程度であろうという理論が1998年に発表され、世界中の物理学者がひっくり返った。その大きさがたった0.1ミリメートルしかないということにではない。0.1ミリメートルもありそうだ、ということに驚いたのだ!――<「はじめに」より>
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社講談社
- 発売日2011/2/22
- 寸法11.4 x 1.2 x 17.4 cm
- ISBN-10406257716X
- ISBN-13978-4062577168
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登録情報
- 出版社 : 講談社 (2011/2/22)
- 発売日 : 2011/2/22
- 言語 : 日本語
- 新書 : 256ページ
- ISBN-10 : 406257716X
- ISBN-13 : 978-4062577168
- 寸法 : 11.4 x 1.2 x 17.4 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 423,335位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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立教大学理学部准教授。1999年京都大学大学院理学研究科単位取得退学。博士(理学)。米国ブルックヘブン研究所、理化学研究所を経て2003年立教大学講師、2005年より現職。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学訪問研究員。余剰次元探索のための近距離重力実験の他、カナダ・トライアムフ研究所での時間反転対称性の研究を進めている。フジテレビ「ハッケン!!」出演。趣味は登攀的な山登り、長野の別荘(ドームハウス)のセルフビルド。立教大学体育会山岳部長。鎌倉市在住(2011年現在、バンクーバー長期滞在中)。愛犬家。
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年2月25日に日本でレビュー済み
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2013年1月25日に日本でレビュー済み
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おもしろかったが、理解できないところが多かった。逆二乗則事態を理解するのが難しかった。
2011年3月20日に日本でレビュー済み
逆二乗則のことについては、本書の中ごろで、球面の面積の考え方から必然的にでるものだ、と白状している。1/r^2はある意味で不思議でも何でもないのである。私も、大学の物理の講義での、教授のお話で、目からウロコが落ちたと思った。時間を除いて3次元だから逆二乗なのであって、それを調整するというのは理屈かない。高次元なら(n次元とすると)、ちょっと遠くなると急に影響は減少してしまう(1/r^(n−1) 4次元なら1/r^3)。
3次元で1mから10mに離れると、1/100だが、4次元では1/1000、5次元では1/10000になる。3次元より高次元では今の宇宙はできない。高次元は小さなスケール、寸法のでのことと書かれている。
読んでも、その後の展開、ダークマターやダークエネルギーにはなかなか考えがつながっていかない。
私の考えている、2次元の重力場のほうが、いいと思う。
3次元で1mから10mに離れると、1/100だが、4次元では1/1000、5次元では1/10000になる。3次元より高次元では今の宇宙はできない。高次元は小さなスケール、寸法のでのことと書かれている。
読んでも、その後の展開、ダークマターやダークエネルギーにはなかなか考えがつながっていかない。
私の考えている、2次元の重力場のほうが、いいと思う。
2011年5月22日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
これは非常に面白い本でした。
物理を勉強した事がある人であれば重力やクーロン力の力が距離の逆二乗に則って及ぼしあうということは周知のことだと思います。
その逆二乗則が、実は0.1mm程度の範囲では破れている可能性があるという、ちょっとびっくりすることが提示されています。
そして、自然界に存在する4つの力を統一して理解する上で難関となっている重力の統一までを考えると、目に見えない範囲で三次元以上の次元が隠れているというのが現在の最先端での理解ですが、それらの余剰次元がプランク長さに納まらなければならいという条件を取り払う事で上記の距離範囲を提示したADD理論(仮説)について解説されています。
解説については、逆二乗則の歴史的な理解から強い力や弱い力の力の伝播の性質からどのように力について認識すべきか、逆二乗と次元との関係なとがわかりやすくされており、非常に読みやすい構成になっています。
また、ADD理論の検証のため、逆二乗側がどの距離まで有効であるかという測定が、現在も世界の各所でなされているというのも、ライブな感じがして読みやすかった一因だと思います。
筆者も自分の大学の学生達とこの距離の有効性について研究を重ねているとの事ですが、このような最先端の題材を、筆者の言うところの簡易かつ精度の高い機器を操り勉強をしている学生達は非常に幸せだと思いました。
どのような結論が出てきても、量子物理学の分野が活性する題材だと思いますし、それがこのように親しみやすい文章で読めるのはありがたい事だと思います。
物理に興味のある人には、お薦めできる一冊です。
物理を勉強した事がある人であれば重力やクーロン力の力が距離の逆二乗に則って及ぼしあうということは周知のことだと思います。
その逆二乗則が、実は0.1mm程度の範囲では破れている可能性があるという、ちょっとびっくりすることが提示されています。
そして、自然界に存在する4つの力を統一して理解する上で難関となっている重力の統一までを考えると、目に見えない範囲で三次元以上の次元が隠れているというのが現在の最先端での理解ですが、それらの余剰次元がプランク長さに納まらなければならいという条件を取り払う事で上記の距離範囲を提示したADD理論(仮説)について解説されています。
解説については、逆二乗則の歴史的な理解から強い力や弱い力の力の伝播の性質からどのように力について認識すべきか、逆二乗と次元との関係なとがわかりやすくされており、非常に読みやすい構成になっています。
また、ADD理論の検証のため、逆二乗側がどの距離まで有効であるかという測定が、現在も世界の各所でなされているというのも、ライブな感じがして読みやすかった一因だと思います。
筆者も自分の大学の学生達とこの距離の有効性について研究を重ねているとの事ですが、このような最先端の題材を、筆者の言うところの簡易かつ精度の高い機器を操り勉強をしている学生達は非常に幸せだと思いました。
どのような結論が出てきても、量子物理学の分野が活性する題材だと思いますし、それがこのように親しみやすい文章で読めるのはありがたい事だと思います。
物理に興味のある人には、お薦めできる一冊です。
2019年2月2日に日本でレビュー済み
重力もクーロン力も逆2乗則であることに昔悩んだ私にとっては、悩みを解説してくれるとても感動的な本でした。
2014年6月22日に日本でレビュー済み
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kindle本として購入しましたが、書籍をコピーしたタイプなので、文字の拡大・縮小が出来ません。
Kindleでは、文字が小さすぎて、老眼には辛いです。
iPadで、なんとか疲れないで読めます。電子書籍を購入し始めたきっかけが、高齢者に優しい文字の拡大機能ですので、それができない本は、そのことを明記して欲しいものです。
いくら素晴らしい内容の本でも、読めなければ意味が無いことを販売者は認識してください。
Kindleでは、文字が小さすぎて、老眼には辛いです。
iPadで、なんとか疲れないで読めます。電子書籍を購入し始めたきっかけが、高齢者に優しい文字の拡大機能ですので、それができない本は、そのことを明記して欲しいものです。
いくら素晴らしい内容の本でも、読めなければ意味が無いことを販売者は認識してください。
2016年9月27日に日本でレビュー済み
余剰次元の実在を証明できていない書籍であるが、余剰次元が実在すれば素晴らしいという、読んで期待を持つことができる書籍である。
2011年8月23日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本では、万有引力の法則とクーロンの法則が逆二乗則であるのは「三次元空間であればこの2つの力が逆二乗則になるのは不思議でもなんでもない、球の表面積の公式4Πr^2から来ている」としています。本では電場について次の3つの仮定をします。
(1)電荷Qからは、その電荷量に比例するNQ本の電気力線が発生している。
(2)電気力線は等方的に空間に伝播する。
(3)空間は三次元空間だとする。
そして次の推論により、三次元空間では電場が逆二乗則になるのだと結論しています。
(推論)電場の強さは電荷量に比例するのだから、電場の強さは電気力線の本数に比例する。よって、ある場所での電場の強さはその場所での電気力線の密度に比例するはずである。球上での電気力線密度はNQ/4Πr^2だから、それに比例する電場の強さはE=k・Q/r^2と導ける。
以上の仮定と推論のどこがおかしいのか。それは推論の中の「電場の強さは電気力線の本数に比例する」という箇所がおかしいのです。電場の強さとは空間中のある1点での値です。電荷量が2倍になれば、ある1点を通る電気力線の本数も2倍になるのでしょうか。そんなことはありません。点の面積はゼロなので、ある1点を通る電気力線の本数は電気力線密度(有限値)×面積(ゼロ)=ゼロであり、1本も通らないのです。ただ、電磁気学の約束事として電場の方向を表すためにどの点も1本だけ通ると定義しているだけなのです。つまり、電場の強さは電気力線の本数に比例しません。電荷量に関係なく、ある1点を通る電気力線は約束事により1本のみなのです。電気力線とは、それぐらい物理的にはほとんど無意味なものなのです。この電気力線から自然法則である逆二乗則を導き出すのは根本的に無理でしょう。
他のサイトでも「逆二乗則は球の表面積に由来する」論法が見受けられますが、電気力線や光線という「ない」ものから「ある」ものを導き出すなかなか高度なトリックかと思います。みなさん、自分でよく考えてみて下さい。
(1)電荷Qからは、その電荷量に比例するNQ本の電気力線が発生している。
(2)電気力線は等方的に空間に伝播する。
(3)空間は三次元空間だとする。
そして次の推論により、三次元空間では電場が逆二乗則になるのだと結論しています。
(推論)電場の強さは電荷量に比例するのだから、電場の強さは電気力線の本数に比例する。よって、ある場所での電場の強さはその場所での電気力線の密度に比例するはずである。球上での電気力線密度はNQ/4Πr^2だから、それに比例する電場の強さはE=k・Q/r^2と導ける。
以上の仮定と推論のどこがおかしいのか。それは推論の中の「電場の強さは電気力線の本数に比例する」という箇所がおかしいのです。電場の強さとは空間中のある1点での値です。電荷量が2倍になれば、ある1点を通る電気力線の本数も2倍になるのでしょうか。そんなことはありません。点の面積はゼロなので、ある1点を通る電気力線の本数は電気力線密度(有限値)×面積(ゼロ)=ゼロであり、1本も通らないのです。ただ、電磁気学の約束事として電場の方向を表すためにどの点も1本だけ通ると定義しているだけなのです。つまり、電場の強さは電気力線の本数に比例しません。電荷量に関係なく、ある1点を通る電気力線は約束事により1本のみなのです。電気力線とは、それぐらい物理的にはほとんど無意味なものなのです。この電気力線から自然法則である逆二乗則を導き出すのは根本的に無理でしょう。
他のサイトでも「逆二乗則は球の表面積に由来する」論法が見受けられますが、電気力線や光線という「ない」ものから「ある」ものを導き出すなかなか高度なトリックかと思います。みなさん、自分でよく考えてみて下さい。