新聞の紹介記事を見て取り寄せました。
お話は小学１年生の女の子の目線で語られます。時は終戦の３年前、女の子の住む町の空き店舗に腕の良い靴職人のタスケさんが店を開きます。タスケさんはひどい近眼のため兵役検査で不適格となり、傷んだ靴の修理をして生計を立てています。
お国の役に立てない存在だと恥を抱えているタスケさんですが、靴を履く人ひとり一人と向き合い、最高の品質で繕う彼の手仕事はとても貴いものでした。タスケさんに憧憬と幸福を見いだした女の子の想いに読み手は共感することと思います。
お話の中では革やニカワの独特のにおい、作業工程で感じる素材の質感、リズミカルな音の描写があり、女の子と一緒にタスケさんの靴屋にいたような気持ちになります。
易しい言葉で多くを語らず洗練された筆致で綴られ、森環さんのフランネル生地のような柔らかい絵が二人の過ごした優しい空間を見事に表現しています。真新しい上等な革であつらえたタスケさんの靴は、彼の穏やかで朗らかな人柄と共に艶やかな余韻となって記憶に残ることでしょう。
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