看護師だったユダヤ系ドイツ人のジュディスは、23歳だった1942年2月23日、職場の病院でゲシュタポ(ナチス秘密警察)に拘束され、同じ時に母やきょうだい、そして婚約者も拘束される。仮収容所からアウシュビッツ・ビルケナウ収容所(絶滅収容所と呼ばれた)に送られ、強制労働に従事する。その後、病院棟や小児病棟で看護師として働かされるようになり、肉体的には負担が減った(これが、彼女が生き延びる大きな要因となった)ものの、十分な手当てもできず苦しみながら死んでいくたくさんの人と毎日接する精神的苦痛が代わりにのしかかった。
ロシア軍による空襲が激しくなった1944年9月にはビルケナウからアウシュビッツに移され、ドイツにとっての戦況がいよいよ悪化した1945年1月からは、避難する収容所の職員らの盾にされる形でいくつもの収容所を転々とさせられる。その途中の4月、体力の限界を感じた彼女は一人の友人とともに脱走し、5月、ついにドイツ軍の敗北による終戦を迎え、ジュディスは家族全員と婚約者の死と引き換えにたった一人自由の身となる。解放直後のオシャッツでは、占領軍のロシア兵による婦女子の無差別的な暴行が横行したが、彼女は辛うじてそれを逃れ、アメリカ軍占領地域に移ってやっと本当の自由を獲得。その後は同じく収容所を生き延びた男性と結婚してアメリカに移住し、幸せな人生を送った。
それにしても、収容所にいた3年あまりの日々、彼女が見た世界は「地獄」という表現さえ生易しいと感じられるほどの苛酷なものだった。その記憶を思い起こすたびに焼け付くような痛みに襲われたことは想像に難くない。ナチスがどれほど極悪非道なことをしたかを伝えたいという一心で、その痛みに耐えながらこの本を書いたのだと思うと、どんなに読むのが辛くても目をそむけてはならないと感じて最後まで読み通すことができた。
この本を読むと、人間というのがほんのちょっとしたたわいない単純な刷り込みによってどれだけ非人間的になれるかがわかる。ナチスの親衛隊らは、まるであらゆる虐殺の方法を競い合うかのようにユダヤ人の収容者たちを虫けら同然の扱いで日常的に暴行し、暴言を吐き、息の根を止め、死体を嘲る。女性であっても少年であっても、ナチスの看板を背負うだけで悪魔に変身する。さらには、一部のユダヤ人収容者も生き延びるためにナチスに取り入って、同胞の虐殺に手を貸す。戦時下のような極限状況では、人間というのは本当に弱い存在なのだと実感する。これはドイツ人に限った話ではない。大逆事件や甘粕事件では、日本の国家権力が思想信条の違いを理由に無実の人々を死に追いやった。自分自身にも悪魔の種が宿っていることを自覚したい。そして、その種が芽吹かないために、万が一にも二度と戦争を起こしてはならない。
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アウシュヴィッツの地獄に生きて (朝日文庫) 文庫 – 2020/12/7
ジュディス・S・ ニューマン
(著),
千頭宣子
(翻訳)
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ユダヤ人看護師ジュディスは、23歳のときに強制収容所に収容される。母、兄弟姉妹、婚約者、叔父叔母らは次々と収容所で死んでいった。地獄を生き抜いた平凡な女性が、収容所の現実、解放後の苦しみ、その後の人生をリアルに淡々と描いた手記。
- 本の長さ207ページ
- 言語日本語
- 出版社朝日新聞出版
- 発売日2020/12/7
- 寸法14.8 x 10.5 x 0.8 cm
- ISBN-104022620412
- ISBN-13978-4022620415
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商品の説明
出版社からのコメント
ユダヤ人看護師ジュディスは、23歳のときに強制収容所に収容される。
母、兄弟姉妹、婚約者、叔父叔母らは次々と収容所で死んでいった。
地獄を生き抜いた平凡な女性が、収容所の現実、解放後の苦しみ、その後の人生をリアルに淡々と描いた手記。
母、兄弟姉妹、婚約者、叔父叔母らは次々と収容所で死んでいった。
地獄を生き抜いた平凡な女性が、収容所の現実、解放後の苦しみ、その後の人生をリアルに淡々と描いた手記。
登録情報
- 出版社 : 朝日新聞出版 (2020/12/7)
- 発売日 : 2020/12/7
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 207ページ
- ISBN-10 : 4022620412
- ISBN-13 : 978-4022620415
- 寸法 : 14.8 x 10.5 x 0.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 194,556位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 55位ドイツ・オーストリア史
- - 521位朝日文庫
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2021年4月10日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
著者が女性なので、ナチスドイツの迫害を詳細に描写していて、すごい迫力があった。
2022年11月25日に日本でレビュー済み
ホロコーストに関する本をよく読んでいますが、この本が最も分かりやすくスラスラ読み進められました。
中学生程度なら読める理解しやすい内容です。
どのようなことがあったのか分かりやすかったですが、挿絵があればもっと良かったかと思いました。
アウシュヴィッツから生存した数少ない女性で、戦後アメリカで暮らしたジュディスさんが、偶然日本人の訳者と出会った事で日本でも出版され、自分も読む機会を得ました。(訳者あとがきを是非読んでください)
この偶然に感謝します。
他の本でも出てきた言葉ですが、「今を生きる若い世代に戦争責任はない。しかし、それを知り、繰り返さない責任はある」。
是非皆さんに読んで欲しい本です。
中学生程度なら読める理解しやすい内容です。
どのようなことがあったのか分かりやすかったですが、挿絵があればもっと良かったかと思いました。
アウシュヴィッツから生存した数少ない女性で、戦後アメリカで暮らしたジュディスさんが、偶然日本人の訳者と出会った事で日本でも出版され、自分も読む機会を得ました。(訳者あとがきを是非読んでください)
この偶然に感謝します。
他の本でも出てきた言葉ですが、「今を生きる若い世代に戦争責任はない。しかし、それを知り、繰り返さない責任はある」。
是非皆さんに読んで欲しい本です。
2021年2月8日に日本でレビュー済み
これほどの深い悲しみを体験しても前を向いて歩くジュディスさんに脱帽しました。
彼女は自分の人生やナチスの事を恨み嘆き続けるのではなく、自らの幸せを勝ち取るために再び歩み始めました。
自らの闘いに彼女は勝利したんだと感じました。
思い出すだけでも気分が悪くなるであろうアウシュウビッツでの話をありのままに語ってくださる彼女の姿勢に驚きを隠せません。
どれだけ怖かっただろうか、悲しかっただろうか、何度自殺しようと思っただろうか…。
私達は傍観者として突っ立ってるのではなく自ら歩み寄り学ばなければならないと思いました。
彼女はたまたま『1940年代にヨーロッパで暮らすユダヤ人』だったからという理由でこの運命を背負わなければなりませんでした。
現代に生きる私達だって『2050年代に生きる日本人』だからAIに支配されることだって充分あり得るかもしれません。
ヒトラーだけがやったんじゃなくて、それを支持したのも当時の一般市民である。
共同体の一員として生きてる以上、決して他人事ではないと思うばかりです。
人として生きる以上は知っておかなければならない歴史の事実だとこの本と出会い痛感しました。
彼女は自分の人生やナチスの事を恨み嘆き続けるのではなく、自らの幸せを勝ち取るために再び歩み始めました。
自らの闘いに彼女は勝利したんだと感じました。
思い出すだけでも気分が悪くなるであろうアウシュウビッツでの話をありのままに語ってくださる彼女の姿勢に驚きを隠せません。
どれだけ怖かっただろうか、悲しかっただろうか、何度自殺しようと思っただろうか…。
私達は傍観者として突っ立ってるのではなく自ら歩み寄り学ばなければならないと思いました。
彼女はたまたま『1940年代にヨーロッパで暮らすユダヤ人』だったからという理由でこの運命を背負わなければなりませんでした。
現代に生きる私達だって『2050年代に生きる日本人』だからAIに支配されることだって充分あり得るかもしれません。
ヒトラーだけがやったんじゃなくて、それを支持したのも当時の一般市民である。
共同体の一員として生きてる以上、決して他人事ではないと思うばかりです。
人として生きる以上は知っておかなければならない歴史の事実だとこの本と出会い痛感しました。
2012年1月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
70年前にこんな事があったなんて信じられません。生き残ってこの本を
書いてくれた事に感謝したいです。
書いてくれた事に感謝したいです。
2010年11月5日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
強制収容所では、少しのテレビ映像などでなんとなくわかっているものと思っていましたが、こんなにむごい物だとは思いませんでした。
生き抜いた著者も思いだしたくもないでしょうが、リアルに伝えて行くのはいい事だと思います。
読みながら目をそむけたい所もありましたが、3回読み返しました。
今度は逆に収容所にいたナチスの気持ちをしりたくなりました。どんな気持ちでなぐったり踏みつけたり、簡単に殺人をしていったのか…。
生き抜いた著者も思いだしたくもないでしょうが、リアルに伝えて行くのはいい事だと思います。
読みながら目をそむけたい所もありましたが、3回読み返しました。
今度は逆に収容所にいたナチスの気持ちをしりたくなりました。どんな気持ちでなぐったり踏みつけたり、簡単に殺人をしていったのか…。
2021年4月4日に日本でレビュー済み
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多くのユダヤ人らが虐殺されたアウシュヴィッツ・ビルケナウ絶滅収容所の数少ない生還者による貴重な証言。看護婦だったためにガス室送りを免れたが、終戦で解放されるそのぎりぎりの時まで、いつ殺されるともわからない運命だった。いかにもおばあさんの昔話し調の平易な調子の日本語訳なので読み物としては物足りなさを感じてしまわなくもないが、その内容は実に重く、真実性に富んでいる。「信憑性に欠ける」と題するのレビューも目にするが、どこが信憑性に欠けるのか、そちらのレビューの方こそ信憑性に欠ける。「RIF石鹸」は「Ruhe in Frieden(=Rest in Peace と同義のドイツ語)」の略であることは作者がユダヤ系ドイツ人だったことを考えれば当たり前の話しで、外国語と言えば英語しか思い浮かばないレビュワーの頭脳に問題があることだろう。同じように作者が「ヘスラー所長」として語っている部分は、おそらく看守長のフランツ・ヘスラーのことであって、アウシュヴィッツ所長だったルドルフ・ヘスとは別人のことだろうと言うことは、すこし調べればすぐにわかること。いまの時代、無責任にたれ流されるレビューにも、眉に唾をつけて接する必要があります。