我が国において、非正労働者の増加が問題視され始めた当時、「オランダ・モデル」なるものを持て囃す「識者」や「マスコミ」が有ったのを記憶している方も多いと思う。「同一労働・同一賃金」の下で、「フルタイム」と「パートタイム」を労働者のライフステージや価値観に応じて、自由に往復できる仕組み。日本のように「正規」⇒「非正規」の「片道切符」ではない公平な雇用制度。他の西欧諸国が失業と低成長に悩む中で、例外的な成功を納めたオランダ。こんな議論だったと思う。
著者は、この「オランダ・モデル」に一定の評価を与えつつも、負の側面と、行き詰まりについても論じて行く。
負の側面の一例を挙げれば、「フルタイム」と「パートタイム」を自由に往復できると言うことは、女性に「3年間抱っこし放題」を強いる社会的圧力が加わり、女性の労働参加率は高いが、キャリア形成では、他の欧米先進国の後塵を拝する結果を招いているとする。結果的には、保育園などへの公的負担は減るのだが・・・。
根底にある価値観を探れば、「揺り籠から墓場まで」の福祉国家を背負いきれなくなって、働けるものは皆働け、働けるようにしてあげるから怠けるなと言うこと。この理屈を極端に押し進めると、言語的、文化的な障壁の中で、行き所の無くなった移民・難民への排除の理論を生み出していくことになる。オランダも今や「寛容」な国ではなくなってしまったことになるようだ。
移民排除と言っても、オランダの場合は、ナチスのようなファシズムに淵源を持つ人種・民族差別ではなく、男女平等、性的マイノリティを否定しない、政教分離と言った西欧的価値観を尊重しない人々を排除すべしと言う左派にとっても抗しがたい主張が強いとも言う。
以上は過度に大雑把で不適切な要約だとも思うが、絶体王政を経ずに市民社会が成立した寛容な先進国であると同時に、カルバン派とカトリックと言う新旧のキリスト教が、政治や社会に強い影響力を持ち、教育や福祉の大きな部分を担う国。このようなオランダの歴史的特性に、本書の相当部分が費やされており、勉強にはなるが骨の折れる本でもあった。
本書のテーマ外だが、個人的には、私は「オランダ・モデル」には大反対である。終身雇用の下で、生活給としての年齢別賃金カーブを維持する「日本的雇用慣行」の確立を、若き日に労働組合員として担った者の思いだ。
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反転する福祉国家: オランダモデルの光と影 (岩波現代文庫 学術 398) ペーパーバック – 2019/1/17
水島 治郎
(著)
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オランダモデルと言われる雇用・福祉改革が進展し、「寛容」な国として知られてきたオランダ。しかし、そこでは移民・外国人の「排除」の動きも急速に進行した。この対極的に見える現実の背後にどのような論理が潜んでいるのか。ポピュリズムに揺れる激動の時代を読み解く。
- 本の長さ304ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2019/1/17
- 寸法10.5 x 1.5 x 14.8 cm
- ISBN-104006003986
- ISBN-13978-4006003982
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2019/1/17)
- 発売日 : 2019/1/17
- 言語 : 日本語
- ペーパーバック : 304ページ
- ISBN-10 : 4006003986
- ISBN-13 : 978-4006003982
- 寸法 : 10.5 x 1.5 x 14.8 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 420,629位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 613位岩波現代文庫
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2019年2月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年3月15日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
オランダモデルとヨーロッパの群小の国の一つの話と初め見ていたが、読むうちに、これは世界を象徴するモデルだと気づいた。17世紀に戻って説き始められる。ちょうどフェルメール展でオランダ社会の豊かさを身近に感じていたところで、またこの表紙がアムステルダム国立美術館で見たレンブラントの夜警ということも印象的だった。
オランダの政治がその歴史背景から連綿とつながって変化していった様子を教えられる。キリスト教的政治勢力は対立するカトリックとカルバン派が同盟していたこともその目的が教育の反世俗化であったことも教えられた。
包摂形福祉から参加形に移行するにつれ排除が生まれ、それは第3次産業中心の社会へとともに生れるという理由が明快だった。
イスラム批判が当然のように顕在化し、イスラム原理主義者の殺人末梢が正当化される中、オランダ政府が軍の施設を使って保護する姿が印象的だった。
オランダの政治がその歴史背景から連綿とつながって変化していった様子を教えられる。キリスト教的政治勢力は対立するカトリックとカルバン派が同盟していたこともその目的が教育の反世俗化であったことも教えられた。
包摂形福祉から参加形に移行するにつれ排除が生まれ、それは第3次産業中心の社会へとともに生れるという理由が明快だった。
イスラム批判が当然のように顕在化し、イスラム原理主義者の殺人末梢が正当化される中、オランダ政府が軍の施設を使って保護する姿が印象的だった。
2015年4月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
興味深く、かつよく構成建てされて読みやすい。とてもいい本です。詳しくはまた書きます。
2019年12月6日に日本でレビュー済み
本書は、「オランダモデル」としてしばしば称揚されるオランダ福祉国家の実情を、光と影それぞれの側面から描き出す。
特に「影」の側面では、移民排斥・イスラム排斥などの問題が取り上げられており、現代的な諸問題の縮図とも見れ、興味深い一冊である。
まず本書では、オランダの福祉国家モデルを、アンデルセンの分類に基づき「保守型福祉国家レジーム」と位置付ける(他に社会民主主義レジームと自由主義レジームがある)。
これは、社会主義と自由放任主義を共に退け、社会的なコミュニティや家族を軸として充実した福祉を実現させるスタイルであり、キリスト教民主主義政党が主に推進した。(日本の社会福祉のあり方とも類似しており、この辺の状況は日本でも参考になるかもしれないと感じた)
オランダは長らく男性稼得者モデルが中心だったが、就労を積極的に促す政策を進め、特にフルタイム労働者とパートタイム労働者に同等の権利保障を与え、フルタイムとパートタイムとを自由に行き来できるフレキシブルな働き方を認めることで、女性を含めた幅広い層の就労に成功している。この辺りは日本との差は大きい。
女性の就労率はオランダでは非常に高いが、一方でその多く(特に子供のいる母親)がパートタイム労働であり、フルタイム労働を志向する女性は2割程度という点はしばしば論争の的となっている。
かつては労組が政策決定過程を牛耳り、失業手当が充実しすぎており、特に早期退職の手当てとして(制度の本来の趣旨から外れて)使う人が多数いて大きな負担となっていたが、労組の影響力は次第に排除され、失業者の就労を強く促すないし義務付ける方向で制度転換がなされた。
さて、このような比較的成功を収めた福祉国家を実現させたオランダだが、一方で「移民排除」でもかなり先鋭を進んでいる。
フォルタインやウィルデルスなどの極右によるイスラム排除の主張は、既存エリート批判と相まって、国民からの支持も割と集めている。
イスラムを攻撃する映画を流したテオ・ファン・ゴッホの暗殺事件など、特にイスラムへの排撃は様々な問題を発生させている。
こういった最近の極右の特徴として、民族主義的な話を持ち出すのではなく、人権や男女平等などのリベラルな価値観を強く擁護し、返す刀で女性蔑視を含むイスラムを「劣った宗教」として否定する、という議論を行っている点が挙げられる。
政権に入っていた期間は長くはないが、一方で厳しい国籍取得要件やオランダの知識テストなどが課されるようになっている。
高技能の人(オランダに貢献しそうな人)については国籍要件を緩めたりするなど、選別的な方策がとられている。
こうした極右台頭の背景として、オランダの「包摂」型の福祉社会は、その前提として「包摂できない人はあらかじめ排除するしかない」という思考があるという。
特に脱工業化社会においては、コミュニケーションがあまり必要なかった肉体労働(そもそも会話さえ多くなくてもよく、その人の思想や信仰などどうでもいい)に代わり、対人関係やコミュニケーションが重要な仕事が増えてきて、異質な人々の居場所がなくなっていく、という背景事情がある。
筆者は、コミュニケーション能力のようなあいまいな、また双方の努力によって実現可能な行動について、一方にのみ負荷を負わせるような対応は望ましくないという立場を表明して終えている。
ひとつ気になるのは、フォルタインやウィルデルスなどはメディア等でも「極右」と呼ばれるし、本書でもその慣習に倣っているが、あれは「極端な右翼」というより「極端な左翼」ないし「極端なリベラル」と呼ぶ方が妥当ではないかという点である。
「極端主義」を「自らが正しいと信じた主義主張のみを絶対に正しいと考え、それ以外の立場・正しさがありうることを顧みず、特に自分の観点からは『正しくない』とされる立場に徹底して不寛容で排除していく立場」とするならば、ここで「極右」と呼ばれる人々は、「リベラルな思想で正しいとされることを絶対視し、自らの教条で『劣った』とされたものを排除していく、「極端リベラル」と呼ぶ方が近いと思う。
「リベラルは外国人を排除しない」などという前提を(特にリベラルの立場の論者は)暗黙裡に置きがちなので、「排除する=右翼」のような図式になるのだろうが、「自らの正しさを自明視し、自分とは異なる正しさがありうるという謙虚さを持ち合わせないこと」は保守・リベラル、左右問わないものであり、オランダで「極右」と呼ばれるものの一部は、極端主義だが右翼というよりはリベラルととらえた方がいいのではないかと感じた。
細かな意見には不一致もあるが、脱工業社会における福祉と移民をめぐる一つの事例を詳しく見てくれていて、また日本とも類似する部分(福祉国家の形成のあり方等)もあり、なかなか参考になる。
現在ますます世界的に排除と閉鎖、不寛容が進むなか、深く考えるに値する一冊であろう。
特に「影」の側面では、移民排斥・イスラム排斥などの問題が取り上げられており、現代的な諸問題の縮図とも見れ、興味深い一冊である。
まず本書では、オランダの福祉国家モデルを、アンデルセンの分類に基づき「保守型福祉国家レジーム」と位置付ける(他に社会民主主義レジームと自由主義レジームがある)。
これは、社会主義と自由放任主義を共に退け、社会的なコミュニティや家族を軸として充実した福祉を実現させるスタイルであり、キリスト教民主主義政党が主に推進した。(日本の社会福祉のあり方とも類似しており、この辺の状況は日本でも参考になるかもしれないと感じた)
オランダは長らく男性稼得者モデルが中心だったが、就労を積極的に促す政策を進め、特にフルタイム労働者とパートタイム労働者に同等の権利保障を与え、フルタイムとパートタイムとを自由に行き来できるフレキシブルな働き方を認めることで、女性を含めた幅広い層の就労に成功している。この辺りは日本との差は大きい。
女性の就労率はオランダでは非常に高いが、一方でその多く(特に子供のいる母親)がパートタイム労働であり、フルタイム労働を志向する女性は2割程度という点はしばしば論争の的となっている。
かつては労組が政策決定過程を牛耳り、失業手当が充実しすぎており、特に早期退職の手当てとして(制度の本来の趣旨から外れて)使う人が多数いて大きな負担となっていたが、労組の影響力は次第に排除され、失業者の就労を強く促すないし義務付ける方向で制度転換がなされた。
さて、このような比較的成功を収めた福祉国家を実現させたオランダだが、一方で「移民排除」でもかなり先鋭を進んでいる。
フォルタインやウィルデルスなどの極右によるイスラム排除の主張は、既存エリート批判と相まって、国民からの支持も割と集めている。
イスラムを攻撃する映画を流したテオ・ファン・ゴッホの暗殺事件など、特にイスラムへの排撃は様々な問題を発生させている。
こういった最近の極右の特徴として、民族主義的な話を持ち出すのではなく、人権や男女平等などのリベラルな価値観を強く擁護し、返す刀で女性蔑視を含むイスラムを「劣った宗教」として否定する、という議論を行っている点が挙げられる。
政権に入っていた期間は長くはないが、一方で厳しい国籍取得要件やオランダの知識テストなどが課されるようになっている。
高技能の人(オランダに貢献しそうな人)については国籍要件を緩めたりするなど、選別的な方策がとられている。
こうした極右台頭の背景として、オランダの「包摂」型の福祉社会は、その前提として「包摂できない人はあらかじめ排除するしかない」という思考があるという。
特に脱工業化社会においては、コミュニケーションがあまり必要なかった肉体労働(そもそも会話さえ多くなくてもよく、その人の思想や信仰などどうでもいい)に代わり、対人関係やコミュニケーションが重要な仕事が増えてきて、異質な人々の居場所がなくなっていく、という背景事情がある。
筆者は、コミュニケーション能力のようなあいまいな、また双方の努力によって実現可能な行動について、一方にのみ負荷を負わせるような対応は望ましくないという立場を表明して終えている。
ひとつ気になるのは、フォルタインやウィルデルスなどはメディア等でも「極右」と呼ばれるし、本書でもその慣習に倣っているが、あれは「極端な右翼」というより「極端な左翼」ないし「極端なリベラル」と呼ぶ方が妥当ではないかという点である。
「極端主義」を「自らが正しいと信じた主義主張のみを絶対に正しいと考え、それ以外の立場・正しさがありうることを顧みず、特に自分の観点からは『正しくない』とされる立場に徹底して不寛容で排除していく立場」とするならば、ここで「極右」と呼ばれる人々は、「リベラルな思想で正しいとされることを絶対視し、自らの教条で『劣った』とされたものを排除していく、「極端リベラル」と呼ぶ方が近いと思う。
「リベラルは外国人を排除しない」などという前提を(特にリベラルの立場の論者は)暗黙裡に置きがちなので、「排除する=右翼」のような図式になるのだろうが、「自らの正しさを自明視し、自分とは異なる正しさがありうるという謙虚さを持ち合わせないこと」は保守・リベラル、左右問わないものであり、オランダで「極右」と呼ばれるものの一部は、極端主義だが右翼というよりはリベラルととらえた方がいいのではないかと感じた。
細かな意見には不一致もあるが、脱工業社会における福祉と移民をめぐる一つの事例を詳しく見てくれていて、また日本とも類似する部分(福祉国家の形成のあり方等)もあり、なかなか参考になる。
現在ますます世界的に排除と閉鎖、不寛容が進むなか、深く考えるに値する一冊であろう。
2019年3月27日に日本でレビュー済み
政治学の比較的新しい潮流である福祉国家研究と伝統的な政治史という二つの方法論を
組み合わせてオランダを分析する本書は、実証性と理論性を兼ね備えた好著だと思う。
保守主義レジームに属するオランダは、「柱」という独特の社会構造なども相まって、
男性稼得者が一家の収入を担うという前提のもとに、充実した社会保障政策を整備してきた。
しかし1980年代になると、伝統的な社会構造の解体が進み、労働者不足も深刻の度合いを増す。
また政治的にも従来のコーポラティズム型意思決定はエリート政治だと批判され、不満が蓄積する。
こうした事情はある程度まで先進資本主義国家に共通であるが、ここでオランダは素早い改革を
実施することで「オランダモデル」と賞揚されるに至る。それはしばしば誤解されるが、
単に「ワークシェアリング」に尽きるようなものではなく、様々な点で日本は今なお学ぶべきことがある。
これがオランダの「光」である。
ではオランダの「影」とは何か。それは「光」の反面として現れる。光とは、女性を典型として、
多様な人材の労働市場への取り込みである。福祉国家を維持していくためには極めて有効であった。
しかし問題は、労働市場へ人々を取り込むというとき、不可避的にそれが一種の「動員」作用を果たし、
排除される人々を同時に生み出していることだ。移民排斥に象徴されるこの「影」のメカニズムを
実証的分析により明らかにしたことに本書の最大の意義がある。
その「影」はなぜ移民排除という形をとって噴出したのか、その解を著者は労働の質の変化に求める。
すなわち、大量生産による高度成長の時代、労働者に求められるスキルはそれほど高くなかった。
それゆえに外国からの労働者を移民として受け入れることに合理性があったのだ。
ところが、消費社会の成熟と低成長の時代(本書の用語では「脱商品化」)、労働者に求められる
最大のスキルは、コミュニケーションである。そうなると、言語コミュニケーションに少しでも
難がある人々を排除する作用が強くはたらくのである。
オランダは、他国に先駆けて改革を成し遂げたがゆえに、排外的ポピュリズムの台頭においても
世界の最先端(?)に位置付けられるとされる。著者たちを中心に、ヨーロッパのポピュリズム研究は、
近年の日本でさかんに進められており、さらなる進展に期待している。
組み合わせてオランダを分析する本書は、実証性と理論性を兼ね備えた好著だと思う。
保守主義レジームに属するオランダは、「柱」という独特の社会構造なども相まって、
男性稼得者が一家の収入を担うという前提のもとに、充実した社会保障政策を整備してきた。
しかし1980年代になると、伝統的な社会構造の解体が進み、労働者不足も深刻の度合いを増す。
また政治的にも従来のコーポラティズム型意思決定はエリート政治だと批判され、不満が蓄積する。
こうした事情はある程度まで先進資本主義国家に共通であるが、ここでオランダは素早い改革を
実施することで「オランダモデル」と賞揚されるに至る。それはしばしば誤解されるが、
単に「ワークシェアリング」に尽きるようなものではなく、様々な点で日本は今なお学ぶべきことがある。
これがオランダの「光」である。
ではオランダの「影」とは何か。それは「光」の反面として現れる。光とは、女性を典型として、
多様な人材の労働市場への取り込みである。福祉国家を維持していくためには極めて有効であった。
しかし問題は、労働市場へ人々を取り込むというとき、不可避的にそれが一種の「動員」作用を果たし、
排除される人々を同時に生み出していることだ。移民排斥に象徴されるこの「影」のメカニズムを
実証的分析により明らかにしたことに本書の最大の意義がある。
その「影」はなぜ移民排除という形をとって噴出したのか、その解を著者は労働の質の変化に求める。
すなわち、大量生産による高度成長の時代、労働者に求められるスキルはそれほど高くなかった。
それゆえに外国からの労働者を移民として受け入れることに合理性があったのだ。
ところが、消費社会の成熟と低成長の時代(本書の用語では「脱商品化」)、労働者に求められる
最大のスキルは、コミュニケーションである。そうなると、言語コミュニケーションに少しでも
難がある人々を排除する作用が強くはたらくのである。
オランダは、他国に先駆けて改革を成し遂げたがゆえに、排外的ポピュリズムの台頭においても
世界の最先端(?)に位置付けられるとされる。著者たちを中心に、ヨーロッパのポピュリズム研究は、
近年の日本でさかんに進められており、さらなる進展に期待している。