死の間際まで原子力の危険に警鐘を鳴らし続け、反原発活動に挺身され2000年に亡くなられた市民科学者・高木仁三郎さんの遺作。原子力の問題のみならず、原発事故を繰り返してしまう原因はどこにあるのかを追及した結果、一種の日本人論的内容になっていることもあり私のような文系人間にも非常に読みやすく書かれていました。
目次
はじめに
1 議論なし、批判なし、思想なし
2 押しつけられた運命共同体
3 放射能を知らない原子力屋さん
4 個人の中に見る「公」のなさ
5 自己検証のなさ
6 隠蔽から改竄へ
7 技術者像の変貌
8 技術の向かうべきところ
あとがきにかえて
本書は1999年の東海村JCO臨界事故から書き起こされています。2011年に福島原発事故が起こるまで、何度もこうした事故や汚染水漏れなどがあったにもかかわらず、日本人の縦社会・無責任・隠蔽体質・事なかれ主義の空気は原子力業界にもあまねく蔓延しており、太平洋戦争の時と同じように、そのチャンスがあったにも関わらず引き返すことができませんでした。この時も現場からは基礎的なミスに気が付いた作業員の方から声が上がっていたのですが、「原子力は特殊だから・・」と真剣な確認作業がなされない環境であったそうです。
原子力は、そもそも中曽根康弘と正力松太郎が一体となって、1945年国会の閉会間際に強引に予算を通しーほとんどの議員にとって寝耳に水であったそうです。しかし、去年のIR法の時と似ていて嫌な気がします。カジノも原発と同じように結局利権構造作りが目的ではないでしょうかー、あとは国策として、もともと原子力技術の基礎もない状態からそれこそ「議論なし、批判なし、思想なし」で、中曽根氏曰く「札束で学者のほっぺたを叩けばいいんだ」と問答無用で推進されていきました。技術者や科学者が疑問を差しはさめるような雰囲気はなく、監査や検証の必要を感じた高木さんが原子力資料情報局を立ち上げるため、官庁に申請しに行くと、科学技術庁の役人は「原子力基本法には原子力事業の推進は国家事業と書いてあるので、反原発は国益に反する」「科学技術庁設置法にも<原子力事業を企画し、立案し、推進すること>が庁の任務と定められている」と平気で答えたそうで、もはや恐怖さえ感じます。役人たちは、公益性を定義するのは国家であり、民間の人間が異議を唱えることは公益に反すると普通に考えているのです。
日本の議会や会議の議論は形式上だけで、初めから結論の方向性は決まっているというのは公然の事実ですが、高木さんが委員会のメンバーに誘われる際にも官庁の役人による露骨な役割支持と根回しが行われたようです。今の有識者会議や経済財政諮問会議などでも行われているのでしょう。
素人にはわからない、物理学者と科学者の仕事の違いや、教育や指導不足のため原子力施設を扱う作業者が体感として放射能の扱いづらさや恐ろしさについて理解していないという指摘も、ある程度知っておくだけでも有益だと思いました。門外漢は「専門家が作業しているのだから大丈夫だろう」と安易に信用してしまいがちですが、バーチャルな作業経験しかない学者が作業員の命に係わる物質を生身で扱ったことがないであるとか、科学者と言っても畑が違えば基礎的な知識さえない場合が少なくないということを知識として知っていれば批判的に見ることができます。
高木さんの最期の願いを裏切るように、福島の原発事故は起きてしまいました。しかし、国策国策と周囲のほとんどの科学者が批判精神なく従う中、粘り強く反原発を訴え続けた高木さんは本当に立派な方だと思います。高木さんの戦いの記録は遺産となって受け継がれていきます。
原子力ムラは虎視眈々と再稼働を狙っていますが、今度こそ、これ以上悲劇を繰り返してはならないはずです。子供たちのためにも大人が真剣にならねばならない時です。
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原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書 新赤版 703) 新書 – 2000/12/20
高木 仁三郎
(著)
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原発と闘い続けた市民科学者の最後の言葉
- ISBN-104004307031
- ISBN-13978-4004307037
- 出版社岩波書店
- 発売日2000/12/20
- 言語日本語
- 本の長さ188ページ
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2017年1月1日に日本でレビュー済み
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2015年12月8日に日本でレビュー済み
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原発事故を隠す事しかしないこの国の現実が悲しくなります。原発はなくすべきです。
2014年10月11日に日本でレビュー済み
まぁ、こんなもんかなという感じです。でも、テレビのニュースが更に分かり易くなり、為になりました。
2013年6月29日に日本でレビュー済み
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はるか昔の学生時代に高木先生の本を読んで感銘を受け、新聞の小さな記事で先生の訃報を知りました。それも10年以上前の話になります。
福島原発の事故のとき、高木先生だったらどう考えたんだろう・・・と思っていたところ、この本の存在を知りました。
高木先生は、反原発の代表みたいに言われていますが、この本に触れて思うのは、先生が偏った思想家などではなく、プライドを持って仕事をしていた、というシンプルな事実です。それが化学・原子力にかかわる仕事だったということです。化学者ならば、これを許してはならない、という根本になる信念が語られていて、それは経験に基づくものだからなおさら重いと思います。
現場を知らない人間がパソコンの上でシュミレーションしただけで安全だと判断し、現実が進んでいくことを大変憂慮されていた先生。これを10年も前の話、と笑うことはできないと思います。高木先生の意思をついで仕事をしてくださる方が今も現場にいることを願ってやみません。
福島原発の事故のとき、高木先生だったらどう考えたんだろう・・・と思っていたところ、この本の存在を知りました。
高木先生は、反原発の代表みたいに言われていますが、この本に触れて思うのは、先生が偏った思想家などではなく、プライドを持って仕事をしていた、というシンプルな事実です。それが化学・原子力にかかわる仕事だったということです。化学者ならば、これを許してはならない、という根本になる信念が語られていて、それは経験に基づくものだからなおさら重いと思います。
現場を知らない人間がパソコンの上でシュミレーションしただけで安全だと判断し、現実が進んでいくことを大変憂慮されていた先生。これを10年も前の話、と笑うことはできないと思います。高木先生の意思をついで仕事をしてくださる方が今も現場にいることを願ってやみません。
2012年7月3日に日本でレビュー済み
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原発事故はなぜくりかえすのか (岩波新書)
著者は日本で最初の原子力事業に従事した原子物理の専門家である。
今回の福島第一原発事故は、2000年に書かれた本書の指摘とおり、
危険箇所に対する措置を的確に講じていたとすれば、明らかに
防げたと言わざるをえない。つまり福島事故は明らかに人災だった。
こうした良心に則った発言は過去において全て無視されてきたのが
残念でならない。今後は災いを転じて福となす、政策が望まれる次第。
著者は日本で最初の原子力事業に従事した原子物理の専門家である。
今回の福島第一原発事故は、2000年に書かれた本書の指摘とおり、
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こうした良心に則った発言は過去において全て無視されてきたのが
残念でならない。今後は災いを転じて福となす、政策が望まれる次第。
2014年10月22日に日本でレビュー済み
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元体制側、原発推進の立場だった筆者ならでは視点で読ませる、異色の反原発論。高木さんの遺言ともいえるこの書を、原発再稼働に突っ走ろうとする今こそ、若い世代に読んでほしい。
2014年3月4日に日本でレビュー済み
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福島の事故についていろいろ考えさせられましたが、今後の指針となりました。
2014年4月24日に日本でレビュー済み
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東海村臨界事故に直面して、高木仁三郎の渾身の書。この本を読むと、今回の福島第一原発の破滅的な事故を経験してなお、全く変わっていない原発推進勢力の体質が見えてくる。日本ではこのあとも、まだまだ深刻な原発事故が、起き続けるということを予感させる。