中野好夫著「スゥイフト考」(岩波新書)中の解説によると、
著述は長い年月をかけて準備されてきたものの、
1745年11月、著者の死後1ヶ月目に、ダブリンとロンドンにおいて
ほぼ同時に出版された小冊子とのことである。
ご丁寧に「奴婢一般に関する総則」と「細則」に分かれている。
その頃のアイルランドや英国の社会情勢はどんなだったかと思いつつ、また
現代日本の雇用状況との比較も思い浮かびつつ読む。
現代のお役所用語で言うところの「被雇用者」の、「雇用主」に対する
労働提供の仕方(処世術)がテーマである。
業種は定めし「ホームヘルパー」といったところ。
事業所から派遣されている身か、はたまた直接雇われているのか、
契約期間や契約形態がどんななのか、説明はない。
スゥイフトが描いているのは具体的なケースにおいて振る舞うべき一挙一動である。
悪ふざけというには度の過ぎたそれらについて、読者は著者と顔を見合わせて
ククとインビな笑いを交わせばいいのか?
スゥイフト流、度を越したあくどい振る舞いの提言は、表面慇懃な形をとっている。
細則全16章の後に付いている「宿屋における召使いのつとめ」は皮肉ではない、との
著者の解説も付いているが、この本の中ではそのまともさがなぜか可笑しい。
スゥイフトには、社会風刺の意図があるのだろうか? どうもそうも思えない。
底意地が悪いばかりのそそのかしには、「ご主人様」への執拗な恨みがあるとしか思えない。
「奴婢」は「奴婢」なりに抵抗し、「ご主人様」に立ち向かえ、
と檄を飛ばしているような。
「労働組合法」があり、労使対等に交渉する権利あるこの時代のこの民主的な国にあっての
我が身に引き比べたりなどせず、何せ古い時代の遠い国のことなので、面白おかしく
他人事として、愉快に笑い飛ばせばいいだろう。そんな気にもなる一書である。
なお、冒頭に引いた中野好夫の「スゥイフト考」にも「僕婢奉公訓」抄として
抄訳が付いており、その訳語も、深町訳と並んで一読に値するものと思う。
末尾に付いている「貧家の子女が・・・私案」は奴婢訓とは
独立した珍提案。アイルランドの貧民のために、義憤による怒りを超えて
笑いを呼び起こそうとの試みらしいが、さて?
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文庫 奴婢訓 文庫 – 1997/3/1
スウィフト
(著)
スウィフトがその晩年に諷刺的鬱憤を爆発させたかの感ある痛烈な皮肉にみちた奇作である.召使頭,料理人,従僕,小間使,洗濯女,家庭教師など十数種の奉公人に対する処世訓が,実は「悪召使必携」ともいうべき逆説で貫かれ,召使の悪習と主人側の心理を徹底的にあばく.他に貧困処理について述べた一文を付す.
- 本の長さ122ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日1997/3/1
- ISBN-104003220927
- ISBN-13978-4003220924
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (1997/3/1)
- 発売日 : 1997/3/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 122ページ
- ISBN-10 : 4003220927
- ISBN-13 : 978-4003220924
- Amazon 売れ筋ランキング: - 363,101位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 246位イギリス・アメリカのエッセー・随筆
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『奴婢訓』には、スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰め
『奴婢訓』(ジョナサン・スウィフト著、深町弘三訳、岩波文庫)には、ジョナサン・スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰めです。どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。
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2013年5月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2015年8月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
最近のISとの、アイコラ対決を思い出す。
風刺が、暴力の傲慢を、一撃でなぎたおす。
「笑い」の技術は、狂信者を紙切れのように吹き飛ばす。
騙されかけた弱者に、するどく覚醒を迫る。
世の中の理不尽に打ち勝つ一筋の道。
日本の苦しむ、立場の弱い人たちに、一読を進めたい。
絶望で狂いかけた精神に、強い正気を生み出す風刺を。
追い詰められた人たちに、「狂気、残虐、無礼のうちに
秘められた」かぎりのない正気を。
風刺が、暴力の傲慢を、一撃でなぎたおす。
「笑い」の技術は、狂信者を紙切れのように吹き飛ばす。
騙されかけた弱者に、するどく覚醒を迫る。
世の中の理不尽に打ち勝つ一筋の道。
日本の苦しむ、立場の弱い人たちに、一読を進めたい。
絶望で狂いかけた精神に、強い正気を生み出す風刺を。
追い詰められた人たちに、「狂気、残虐、無礼のうちに
秘められた」かぎりのない正気を。
2014年11月9日に日本でレビュー済み
『Directions to Servants』(1731年頃執筆、1745年刊)の翻訳。
そのほかに、短文の「宿屋における召使いのつとめ」と「穏健なる提案」(A Modest Proposal,1729年)が併録されている。
バトラー、コック、メイドなどの召使いたちに、サーヴァントとしての心構え、行動指針を示した本である。ただし、パロディであり、どうやったら仕事をさぼれるか、主人をごまかせるかといった内容になっており、その痛烈な皮肉と戯画化に薄ら寒くなる。
なお、執筆途中で放置したまま亡くなっており、未完成。
「穏健なる提案」は、アイルランドの貧民の赤ん坊の有用な処理法を示したもの。人肉食のテーマでは有名な作品だ。
どちらも興味深いのだが、毒が強すぎてちょっと辟易。
そのほかに、短文の「宿屋における召使いのつとめ」と「穏健なる提案」(A Modest Proposal,1729年)が併録されている。
バトラー、コック、メイドなどの召使いたちに、サーヴァントとしての心構え、行動指針を示した本である。ただし、パロディであり、どうやったら仕事をさぼれるか、主人をごまかせるかといった内容になっており、その痛烈な皮肉と戯画化に薄ら寒くなる。
なお、執筆途中で放置したまま亡くなっており、未完成。
「穏健なる提案」は、アイルランドの貧民の赤ん坊の有用な処理法を示したもの。人肉食のテーマでは有名な作品だ。
どちらも興味深いのだが、毒が強すぎてちょっと辟易。
2022年3月19日に日本でレビュー済み
『奴婢訓』(ジョナサン・スウィフト著、深町弘三訳、岩波文庫)には、ジョナサン・スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰めです。
どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。
「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。
「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。
「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。
「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。
「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。
「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。
「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。
「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。
「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。
現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。
どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。
「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。
「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。
「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。
「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。
「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。
「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。
「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。
「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。
「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。
現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。
『奴婢訓』(ジョナサン・スウィフト著、深町弘三訳、岩波文庫)には、ジョナサン・スウィフト特有の皮肉、諷刺、諧謔がぎゅうぎゅう詰めです。
どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。
「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。
「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。
「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。
「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。
「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。
「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。
「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。
「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。
「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。
現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。
どうしたら主人をごまかし欺くことができるか、主人に気取られずに骨惜しみをするにはどうするか、役得をせしめるにはどうしたらよいか――などが、召使たちに向けて得々と述べられているのです。このことは、同時に、召使たちのだらしなさ、自堕落さ、不正直、利己心、狡猾、無精さ、横柄さといった悪習悪癖を微に入り細を穿って暴き立てることになります。
「御主人の呼んだ当人がその場に居ない時は誰も返事などせぬこと。お代りを勤めたりしていてはきりがない。呼ばれた当人が呼ばれた時に来ればそれで十分と御主人自身認めている。あやまちをしたら、仏頂面で横柄にかまえ、自分の方こそ被害者だという態度を見せてやる。怒ってる主人の方から、直きに、折れて来る」。
「コックもバトラア(召使頭)も別当(馬丁)も市場係も、その外お邸の金銭支出に関係のある召使は、主人の収入の全部が自分担当の仕事に当てらるべきもののように振舞うこと」。
「使いに出た召使が必要以上に手間取って、2時間、4時間、6時間、8時間、かそこいら帰って来ないことがよくある。誘惑は強く、木石ならぬ身の抗し難きこともあろうというもの。帰ると、旦那様は怒鳴る、奥様はお小言。裸にするの、ぶんなぐるの、お払い箱だの、お定まり文句。だが、ここで、あらゆる場合に通用する言訳を用意しておかねばならぬ」。
「主人の損になっても商人に味方すること。買物に出された時は決して値切ったりせず、言い値で鷹揚に買い上げる。これは御主人の名誉になることだし、上前がこっちのポケットにころがりこむかも知れぬ。主人が金を出しすぎたとしても、それ位の損は、商人の身に引き較べれば、御主人にとって何でもないこと、と考えるべし」。
「自分が雇われている当面の仕事以外には指一本動かしてはならない」。
「自分が旦那様か奥様のお気に入ってることがわかったら、機会を見て極く穏かに、お暇を頂きたい、と申出てみる。理由を聞かれ、主人の方に手離したくない様子が見えたら、こう答える。御一緒に暮してゆきたいのは山々だが、お邸は仕事が多くて給料はえらく安い。すると、寛大な主人なら、暇は呉れないで、給料を四半期に5志(シリング)か10志増してくれる」。
「昼間ちょろまかすことの出来る旨い物は何でも取っておいて、夜、仲間と楽しむこと。一杯飲ましてくれるならバトラアも入れてやるがよい」。
「三度か四度呼ばれるまでは、行かないこと。口笛一つで飛んで行くのは犬だけだ。旦那様が『誰か』なんて呼んでも、誰も行く必要はない。『誰か』なんて名前のものは居りはしないのだから」。
「皆の衆に一致和合を心からおすすめする。が、誤解してはいけない。お互同士の喧嘩は御随意。唯、旦那様、奥様という共通の敵があり、守るべき共同目的のあることを、夢忘れてはならぬ。年寄の申すことに間違いはない。仲間を陥れようと御主人に告口などする奴は、みんなが腹を合わせて叩き潰してやるべきだ」。
現代でも、時と場合によっては、役に立ちそうなアドヴァイスですね(笑)。
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