2014年3月刊。これは昨秋読んだ吉見氏の名著「草の根のファシズム:日本民衆の戦争体験」の言わば続編である。各地の図書館・資料館・古書店などに眠る当時の日記・手記・雑誌などを丹念に掘り起こし、戦後社会を日本民衆がどのように捉え、前に進もうとしたかを「下からの視点で」解明した見事な労作。
敗戦後の「平和の希求」意識の高まりは誠にもっともなことだが、同時に根強い「天皇への尊崇の念」~敗戦後の東久邇宮内閣が提唱した「一億総懺悔」が、まさに「天皇に対して国民全員で敗戦を詫びる」趣旨であったことと併せて、あの戦争責任追及があいまいに終わった限界性がまさにそこにある、と私は見る。
しかし、戦後の旺盛な労働運動・組合活動など、その後の朝鮮半島情勢変化によるGHQの大幅な路線転換までは大衆の熱気が「新しい社会」の原動力になっていく様は、頼もしい側面もうかがえる。
意外だったのは原爆に対する認識~当時、広島・長崎の惨状がGHQの報道統制によってほとんど知らされていなかったこともあり、この「最終兵器」を「平和のために資するもの」と捉える声が少なからずあったことには少々驚いた。
そして「平和憲法」の受容~決して「押し付けられた」という受け身の捉え方ではなく、多くの民衆が積極的にその意義を肯定していた様は、今改めて見直されるべきだろう。思うに、当時のGHQに理想に燃えた多くの若きニューディーラーがいたことは、日本の戦後再建にとってまことに僥倖であった。
そして「シベリア抑留体験」による「スターリン型社会主義」への冷徹な批判眼の拡がり。これももっともなこと。
最後に、当時の在日コリアンの動向についても聞き取り調査によってある程度明らかにされているが、植民地支配下では「日本臣民」とされながら厳然たる民族差別を受け続け、戦後は一方的に「日本国籍」を剥奪された人たちが懸命に前途を切り開いていく様は、たくましく心強い。特に女性たちの奮闘ぶり~それはもう、言われなくとも、我々は親たちの生き様を見てきて身をもって知っていることでもある。
東アジア情勢がかつてなくきな臭く、危うい方向にばかり転がり続ける今日この頃~こういう優秀な研究成果から改めて学ぶことがとても大切なのだろう。「アジアの片隅で」~「言うだけ無駄」なことを、これからも言い続けよう。
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焼跡からのデモクラシー――草の根の占領期体験(上) (岩波現代全書) 単行本(ソフトカバー) – 2014/3/19
吉見 義明
(著)
戦後日本の民主主義は「与えられた/押しつけられた」ものなのだろうか。日本の民衆が、アジア太平洋戦争の過酷な体験を決定的な契機として、戦前からの平和・自由・共助などの伝統的価値観の基盤の上に、民主主義を自ら作りあげ、獲得していったことを、彼らが残した日記や雑誌への投稿、聞き取りなどを通して明らかにしてゆく。(全2冊)
- 本の長さ272ページ
- 言語日本語
- 出版社岩波書店
- 発売日2014/3/19
- ISBN-104000291254
- ISBN-13978-4000291255
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登録情報
- 出版社 : 岩波書店 (2014/3/19)
- 発売日 : 2014/3/19
- 言語 : 日本語
- 単行本(ソフトカバー) : 272ページ
- ISBN-10 : 4000291254
- ISBN-13 : 978-4000291255
- Amazon 売れ筋ランキング: - 499,942位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
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