阪急の礎を確立した実業家の小林一三(1873-1957)について書かれた書籍は多い訳ですが、あまりにも多くの業績がある逸翁ですので、失敗例はこれまで知らなかったと言わざるを得ません。
いきなり、プロローグに宝塚での室内プール(219pに写真掲載)の失敗の話が登場します。先日放送のブラタモリでもこの事例は紹介されているわけで、有名な話ですが、アイデアマンの小林一三の試行錯誤の例としても理解しています。
阪急の前身の箕面有馬電気軌道鉄道で、まず箕面の観光開発に乗り出した話は興味深いものでした。29pに「箕面駅前パノラマ」があり、ラケット型の路線が示されていました。次ページには同様に箕面駅前平面図があり、思わず現在の地図上でその路線を確認するほど不思議な形状でした。
52p「アミューズメントパークとしての箕面」に詳しいわけですが、そこでの箕面動物園経営、箕面公会堂も含めて、後の宝塚ファミリーランドの萌芽を見て取れます。「山林こども博覧会」の開催も同様で、宝塚の先駆的な役割を果たしていました。ここでの経験が宝塚での演劇への端緒になったのは間違いありません。
途中で川上貞奴も登場し、幅広い演劇史を垣間見る記述も挿入されながら、宝塚開発へと筆は走ります。
本書のテーマである「宝塚新温泉のオープン(179p)」にやっとたどり着くわけですが、そこからは本書の基本テーマが綴られていますので、少し長いですが、ご紹介の意味で引用させていただきます。180pにこのように綴られていました。
「箕面有馬電気軌道鉄道が明治四十三年三月十日に大阪梅田から宝塚へ、途中の石橋から箕面へと路線が敷かれて営業を始めると、宝塚への温泉客も増えてくる。ただ電鉄会社としては、〈箕面有馬〉と称しているように、有馬への延伸が基本であり、宝塚は通過駅としての位置づけにあった。それだけに観光地としても知られる箕面の開発にまずは勢力を注ぎ、集客をはかる新しい施設を整え、大阪お伽倶楽部の助力も得ながら、多様な催しを企画していった。」「宝塚は観光地ではないだけに、これまでは温泉宿を持つ避暑地として知られ、見るべき名所は『宝塚梅林』のみにすぎないと紹介記事はそっけない。ただ、有馬行き電車の構想が明らかにされた時点で、有馬温泉の旅館業者は日帰り客が増え、宿泊しなくなると強く反対していた。結果的にその声の大きさと、山間部を走る難工事もあり、小林一三は有馬への延伸を断念するのだが、正式の決定はまだ先のことであった。」と、当初の終点、有馬への延伸の難しさとそれまでの道のりが上手くまとめられているのが伝わりました。
そうして、東洋一の温泉や、宝塚パラダイスでの最初の少女歌劇「ドンブラコ(250p)」へとつながります。宝塚歌劇団の草創期の歴史を知るのと同時に、箕面有馬電気軌道鉄道の開発の歩みも知ることが出来る好著だと思いました。
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