経済学者であるプリンストン大学教授のA・ディートンによる、映画「大脱走」(J・スタージェス監督 1963年)に本の題名を由来する一冊。
所得と健康の関係、所得と幸福感の関係等々に関して多数の経済学者たちの学説や考え方、統計データが紹介され、同時に様々な統計データが持つ文脈的不備も具体的に説明されている。
章立てと一部ですが内容と感想をご紹介します。
・「序章 本書で語ること」
・「第1章 世界の幸福」
序章に続く全体的な解説。時代とともに貧困層の人数は減少し、所得の上昇とともに平均余命は確実に伸びているという。ただし所得と幸福感の間には相関関係はないようである。
・「第1 部 生と死」
・「第2章 有史以前から1945年まで」
・「第3章 熱帯地方における死からの脱出」
熱帯地方に限定した内容ではなく、ヨーロッパ、北米、中国に関する状況も述べられ、経済成長が健康を自動的に改善するわけではないとのこと。
・「第4章 現代世界の健康」
・「第 2部 お金」
・「第5章 アメリカの物質的幸福」
本書に登場するテーマを顕著に代表する縮図としてのアメリカの状況が紹介されている。
アメリカの家計所得の格差に最も大きな影響力を与えてきたものは、労働市場の非人格的な力であり、家族構成・団体等の政治的影響力・技術や教育制度の変化、グローバル化や最低賃金の低下、医療費の増大、移民の増加などがそれにあたるとしている。また人格的な理由と言える側面も幾つかあげられ、所得配分の最上部に位置する人口集団についての特徴が説明されている。
この中で、所得格差に関する重要な論文としてピケティ等の研究(2003年)を紹介し、彼らのデータを2011年まで更新したものを提示している。それに関する解説の中で、大幅な経済成長にもかかわらず、貧困の削減がほとんど行われなかった理由として、機会の不平等と高額所得者たちが私腹を肥やす巧妙な構造があったこと、また高額所得層が金の力によって政治的影響力を手に入れ、規則は一般市民の関心ではなく富裕層の関心によって定められ、ますます彼らが力を付けていく危険性があるとしている。
さらに今後、高額所得者の増加をどれほど一般市民として懸念すべきなのかを理解していく必要性があるとも指摘している。
・「第6章 グローバル化と最大の脱出」
富裕国一人あたりのGDPは伸び続けながら収束しつつあるのに、貧困国を含めた全世界の一人あたりのGDPは伸びも縮まりもせず、貧しい国はさらに増えつつあるとしている。その原因として、貧困国の政府の能力の欠如、法制度や税制・財産権の保護・信頼という文化などの制度が欠けていることなどがあげられている。また健康の観点からは人口抑制や人口爆発の問題に触れられている。
さらに中国とインドにおける貧困からの克服(これが「最大の脱出」と思われる)の状況とサハラ以南のアフリカの失敗について解説している。
章の題名にあるグローバル化との関連についてはあまり詳しく解説されていない。また国家間の格差の是正は必要なのか、また可能なのかについても最後に触れられ、そしてそれは次の最後の章に引き継がれる。
・「第3 部 助け」
・「第7章 取り残された者をどうやって助けるか」
多分この本を手にした人たちの最大の関心事がこの章なのではないかと思う。
富裕国が貧困国に金銭的な援助をしても世界の貧困は無くならないであろうことを“道徳的無関心”、“理解不足”、“方法論の間違い”、“援助は有害な場合もあるという考え方”の四つの観点から解説されていく。
その中で、貧困の原因が悪徳政治によるものであったり、援助が被援助国のニーズによるのではなく援助国側の内外的関心によったり、ODAの援助資金の大半が貧困国に届いていないという事実があったり、国や地域によってもどの様な援助が有効なのかは異なり、さらには援助の有効性に関する評価方法の難しさ等々、様々な問題点が取り上げられている。
そして最後の節とも言える「私たちは何をするべきか?」の中で述べられている著者の見解が興味深い。
・「あとがき これからの世界」
個人的には富裕層に加担しない立場が一番に好感を持てました。
“statistics”の中に“stat”という言葉が入っている理由も始めて知りました。
格差について興味をお持ちの方にぜひお勧めの一冊です。
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大脱出――健康、お金、格差の起原 単行本 – 2014/10/25
アンガス・ディートン
(著),
松本 裕
(翻訳)
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購入オプションとあわせ買い
世界はより良くなっている――より豊かになり、より健康になり、平均寿命は延びている。
しかしその反面、貧困という収容所から「大脱出」を果たせずに取り残された国や人々がいる。
産業革命以来の経済成長は、大きな格差も生んだのだ。経済発展と貧しさの関係について
最先端で研究を続けてきた著者が、250年前から現在までを歴史的にたどりながら、
成長と健康の関係を丹念に分析することで、格差の背後にあるメカニズムを解き明かす。
「本書は、進歩と格差の間の終わりなきダンスについて記している。……単純に考えると、
貧困からの脱出は金銭的な問題だと思いがちだ。だがお金と同じくらい、ひょっとすると
もっと重要なのかもしれないのが健康と、繁栄する機会を手に入れられるだけ長生きする
確率の向上だ。……富の歴史について語る本は数多くあるし、格差の歴史について語る本も多い。
健康と富がいかに密接な関係にあり、健康の格差が富の格差をいかに鏡のように反映しているかに
ついて語る本もたくさん出ている。私はその両方について一冊で語りたいと思う」(はじめに)
取り残された人々を助ける手立ても示した、健康と豊かさの経済学。
しかしその反面、貧困という収容所から「大脱出」を果たせずに取り残された国や人々がいる。
産業革命以来の経済成長は、大きな格差も生んだのだ。経済発展と貧しさの関係について
最先端で研究を続けてきた著者が、250年前から現在までを歴史的にたどりながら、
成長と健康の関係を丹念に分析することで、格差の背後にあるメカニズムを解き明かす。
「本書は、進歩と格差の間の終わりなきダンスについて記している。……単純に考えると、
貧困からの脱出は金銭的な問題だと思いがちだ。だがお金と同じくらい、ひょっとすると
もっと重要なのかもしれないのが健康と、繁栄する機会を手に入れられるだけ長生きする
確率の向上だ。……富の歴史について語る本は数多くあるし、格差の歴史について語る本も多い。
健康と富がいかに密接な関係にあり、健康の格差が富の格差をいかに鏡のように反映しているかに
ついて語る本もたくさん出ている。私はその両方について一冊で語りたいと思う」(はじめに)
取り残された人々を助ける手立ても示した、健康と豊かさの経済学。
- 本の長さ376ページ
- 言語日本語
- 出版社みすず書房
- 発売日2014/10/25
- 寸法13.6 x 3.4 x 19.5 cm
- ISBN-104622078708
- ISBN-13978-4622078708
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商品の説明
著者について
アンガス・ディートン
Angus Deaton
プリンストン大学の経済学部教授。専門分野は健康と豊かさ、経済成長の研究。イギリス生まれ。米英の市民権を持つ。ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭を執ったのち、プリンストン大学に移籍。 2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。現在の研究テーマは、インドをはじめとする全世界の貧困の計測。
著書Economics and Consumer Behavior (共著、1980, Cambridge University Press); The Analysis of Household Surveys (1997, World Bank)他。
Angus Deaton
プリンストン大学の経済学部教授。専門分野は健康と豊かさ、経済成長の研究。イギリス生まれ。米英の市民権を持つ。ケンブリッジ大学とブリストル大学で教鞭を執ったのち、プリンストン大学に移籍。 2009年にはアメリカ経済学会の会長を務める。現在の研究テーマは、インドをはじめとする全世界の貧困の計測。
著書Economics and Consumer Behavior (共著、1980, Cambridge University Press); The Analysis of Household Surveys (1997, World Bank)他。
登録情報
- 出版社 : みすず書房 (2014/10/25)
- 発売日 : 2014/10/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 376ページ
- ISBN-10 : 4622078708
- ISBN-13 : 978-4622078708
- 寸法 : 13.6 x 3.4 x 19.5 cm
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- - 32,529位ビジネス・経済 (本)
- - 46,448位暮らし・健康・子育て (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年7月27日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本に書かれている大枠を知るには、アマゾンの内容紹介と既に書き込まれているレビューを読む事でこと足りるように思います。
又、実際に本を手に取られれば、一定年齢以上の方であれば、普段情報等に接し、自身が感じている事を分析交えて総括してくれている印象を持つ場合も多いのではないかと思います。
記述分量で他の書籍と比較し、配分が多く感じられるのは国際援助機関によるプロジェクト等に対する評価です。貧困格差問題を扱う代表的な書籍の一つであるこの本で、ディートンは明確に、現状の手法が効果的ではない、使えないと言い切っています。
このことから、個人的には、普段、貧困国・困窮国への募金等に積極的な参加をされているものの、ご自分であまり事情に詳しくないのではないかと感じられる方に、一つの視点として読まれることを薦めます。
国は一つの政治的パフォーマンス、アピールとして、自国が世界的格差貧困是正にこれだけ貢献する、しているとして、拠出金額発表していたりしますが、相手国でのその実際の運用のされ方を追いかけ、開示するような事はほとんどありません。
全く目的用途に使われていないケースは多くあり、非政府系援助であっても、正味の困窮する人達へのそのゆきわたらせ方、使われ方にはお寒い場合が多くあるでしょう。
先方が独裁政権の場合などは尚更の話で、信用できる情報は取得できにくい現状でしょうし、支援する側もされる側の政治家にとっても、自分たちに不都合なものをあえて公開するはずはありません。非政府団体でも似たような事情がないとは言えません。施設など目に見えるものの場合でさえ、独裁政権が全く違う用途に転化したり、気がつけば放置されていてしまったりもします。
ディートンは、援助のあり方、運用方法について具体的な改善提言を書いています。
又、実際に本を手に取られれば、一定年齢以上の方であれば、普段情報等に接し、自身が感じている事を分析交えて総括してくれている印象を持つ場合も多いのではないかと思います。
記述分量で他の書籍と比較し、配分が多く感じられるのは国際援助機関によるプロジェクト等に対する評価です。貧困格差問題を扱う代表的な書籍の一つであるこの本で、ディートンは明確に、現状の手法が効果的ではない、使えないと言い切っています。
このことから、個人的には、普段、貧困国・困窮国への募金等に積極的な参加をされているものの、ご自分であまり事情に詳しくないのではないかと感じられる方に、一つの視点として読まれることを薦めます。
国は一つの政治的パフォーマンス、アピールとして、自国が世界的格差貧困是正にこれだけ貢献する、しているとして、拠出金額発表していたりしますが、相手国でのその実際の運用のされ方を追いかけ、開示するような事はほとんどありません。
全く目的用途に使われていないケースは多くあり、非政府系援助であっても、正味の困窮する人達へのそのゆきわたらせ方、使われ方にはお寒い場合が多くあるでしょう。
先方が独裁政権の場合などは尚更の話で、信用できる情報は取得できにくい現状でしょうし、支援する側もされる側の政治家にとっても、自分たちに不都合なものをあえて公開するはずはありません。非政府団体でも似たような事情がないとは言えません。施設など目に見えるものの場合でさえ、独裁政権が全く違う用途に転化したり、気がつけば放置されていてしまったりもします。
ディートンは、援助のあり方、運用方法について具体的な改善提言を書いています。
2016年9月11日に日本でレビュー済み
「何が豊かさか」という問題はなかなか解けないにせよ、世界がこの200年ほどで爆発的に豊かで暮らしやすくなってきたことには疑いの余地はない。
そして、富と健康の二つが人々の暮らしにおいて圧倒的に重要であることも間違いない。
しかし、世界の多くの国が富と健康を勝ち取っていく中、同時にこれらを未だに手に出来ずに病と貧困にあえぐままにある国も存在している。
どうやって多くの国はこうした大脱出を遂げたのか、どうすれば残された国々も大脱出できるのか、それが本書の主題である。
最初に、昨日の気分を示す「幸福度」ではなく、人生全体を見る「人生満足度」が精神的幸福の適切な基準であることを指摘したうえで、富と健康が人生満足度と確かに相関していることを確認する。
そしてこれらの量の特徴(平均寿命ーGDPのグラフは、感染症による幼児死亡率が主要因の地域と高齢の慢性疾患が主要因の地域とでガクッと傾きが変わる点など)や歴史的には停滞や逆行(毛沢東の大躍進政策からエイズの蔓延まで)を経つつも、着実に改善していることを見る。
経済成長はいろいろな本で扱われているが、健康を強調しその分析に半分近い紙面を割くのはなかなか珍しいと思う。
平均余命の伸びを見ていくと、イギリスの場合、貴族と一般市民は1750年ほどまではほぼ同じなのだが、そこから先で貴族だけが急激に平均余命が伸び、一般市民はしばらくたたないと伸びない、という傾向が見いだせる。
これは人痘接種法が開発されたが高額だったことに由来している。
医療などの知識そのものは無料であり、特に現代であればすばやく広まるものだが、しかしその知識に基づいた予防や公衆衛生の政策を実施するには多大な資金がかかることが多く、それが健康格差を生み出している。
熱帯の病からの第二次大戦後の脱出は、サルファ剤、ペニシリン、DDTに代表される虫の駆除、ワクチンの普及、コレラへの経口補水療法などの比較的安価な方法が重要な役割を果たしてきた。
これは先進国における高齢の慢性疾患においても同じで、心血管疾患に対する利尿薬の導入は、非常に安価かつ効果的だったため、健康格差を縮める役割を果たした。
しかし経済成長だけでは健康は勝ち取ることが出来ず、公衆衛生のインフラにきちんと投資して運用できるしっかりした政府の存在が必要であり、そのため経済成長と平均余命は相関がないというデータが得られているという。
所得のパートの最初では、まずGDPや貧困の定義の問題から始めている。
このあたりは GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史 や 貧困とはなにか―概念・言説・ポリティクス― などでも論じられているような点をうまくまとめている。
その後、ピケティを援用しつつ高額所得者の推移を論じているが、高額所得者増加の弊害を民主制度との関係で議論しているところが新味に見える(しかし本書全体から見るとやはりこの箇所だけ浮いている気はしたが)。
貧困に関しては、貧困線の定義を少し変えるだけでインドで1億人も貧困者の人数が変わってしまうという問題な事態と国際比較のむずかしさも指摘されている。
最後の章で、「援助による脱出」という考えがいかに誤っており有害か、ということを力説している。
ガバナンスの問題を強調し、「お金を出せば最底辺の人々は救われる」という安易な考えがむしろ発展を阻害しているという点を厳しく批判するのは 最底辺の10億人 を思い出さされるが、むしろコリアーよりも辛辣かもしれないぐらいだ。
平均余命が幼児の命を重視しすぎる点、購買力平価を取らない国際比較の無意味さなど、統計を扱う専門家ならではの指摘も多い。
タバコは男性独占で女性が排除されていたため、逆に「男女平等」の象徴としてアメリカ女性の喫煙が60年代から増え始め、男性の肺がんが低下しているのに女性のそれは長らく増加傾向にあったという皮肉な事態も紹介されている。
内容面は文句ないが、一つ難があるのが翻訳で、文意が取れないわけではないが、ところどころ日本語がおかしい(並列のようにはじめていて内容が並列していないとか)場所があったり、語を逆にしないと論理的に通らなかったりするか所があったりする。
内容が素晴らしいだけに、もう少し注意を払っていただきたかった。
最後に翻訳の難を書いたが、全体としては世界全体の発展と現状の問題をうまくまとめており、特に健康面は類書があまりなく価値が高い。
副題の「格差」の話はあまり出ていない点だけは注意であろうか。
貧困国の発展に関心がある人は必読だと思う。
そして、富と健康の二つが人々の暮らしにおいて圧倒的に重要であることも間違いない。
しかし、世界の多くの国が富と健康を勝ち取っていく中、同時にこれらを未だに手に出来ずに病と貧困にあえぐままにある国も存在している。
どうやって多くの国はこうした大脱出を遂げたのか、どうすれば残された国々も大脱出できるのか、それが本書の主題である。
最初に、昨日の気分を示す「幸福度」ではなく、人生全体を見る「人生満足度」が精神的幸福の適切な基準であることを指摘したうえで、富と健康が人生満足度と確かに相関していることを確認する。
そしてこれらの量の特徴(平均寿命ーGDPのグラフは、感染症による幼児死亡率が主要因の地域と高齢の慢性疾患が主要因の地域とでガクッと傾きが変わる点など)や歴史的には停滞や逆行(毛沢東の大躍進政策からエイズの蔓延まで)を経つつも、着実に改善していることを見る。
経済成長はいろいろな本で扱われているが、健康を強調しその分析に半分近い紙面を割くのはなかなか珍しいと思う。
平均余命の伸びを見ていくと、イギリスの場合、貴族と一般市民は1750年ほどまではほぼ同じなのだが、そこから先で貴族だけが急激に平均余命が伸び、一般市民はしばらくたたないと伸びない、という傾向が見いだせる。
これは人痘接種法が開発されたが高額だったことに由来している。
医療などの知識そのものは無料であり、特に現代であればすばやく広まるものだが、しかしその知識に基づいた予防や公衆衛生の政策を実施するには多大な資金がかかることが多く、それが健康格差を生み出している。
熱帯の病からの第二次大戦後の脱出は、サルファ剤、ペニシリン、DDTに代表される虫の駆除、ワクチンの普及、コレラへの経口補水療法などの比較的安価な方法が重要な役割を果たしてきた。
これは先進国における高齢の慢性疾患においても同じで、心血管疾患に対する利尿薬の導入は、非常に安価かつ効果的だったため、健康格差を縮める役割を果たした。
しかし経済成長だけでは健康は勝ち取ることが出来ず、公衆衛生のインフラにきちんと投資して運用できるしっかりした政府の存在が必要であり、そのため経済成長と平均余命は相関がないというデータが得られているという。
所得のパートの最初では、まずGDPや貧困の定義の問題から始めている。
このあたりは GDP――〈小さくて大きな数字〉の歴史 や 貧困とはなにか―概念・言説・ポリティクス― などでも論じられているような点をうまくまとめている。
その後、ピケティを援用しつつ高額所得者の推移を論じているが、高額所得者増加の弊害を民主制度との関係で議論しているところが新味に見える(しかし本書全体から見るとやはりこの箇所だけ浮いている気はしたが)。
貧困に関しては、貧困線の定義を少し変えるだけでインドで1億人も貧困者の人数が変わってしまうという問題な事態と国際比較のむずかしさも指摘されている。
最後の章で、「援助による脱出」という考えがいかに誤っており有害か、ということを力説している。
ガバナンスの問題を強調し、「お金を出せば最底辺の人々は救われる」という安易な考えがむしろ発展を阻害しているという点を厳しく批判するのは 最底辺の10億人 を思い出さされるが、むしろコリアーよりも辛辣かもしれないぐらいだ。
平均余命が幼児の命を重視しすぎる点、購買力平価を取らない国際比較の無意味さなど、統計を扱う専門家ならではの指摘も多い。
タバコは男性独占で女性が排除されていたため、逆に「男女平等」の象徴としてアメリカ女性の喫煙が60年代から増え始め、男性の肺がんが低下しているのに女性のそれは長らく増加傾向にあったという皮肉な事態も紹介されている。
内容面は文句ないが、一つ難があるのが翻訳で、文意が取れないわけではないが、ところどころ日本語がおかしい(並列のようにはじめていて内容が並列していないとか)場所があったり、語を逆にしないと論理的に通らなかったりするか所があったりする。
内容が素晴らしいだけに、もう少し注意を払っていただきたかった。
最後に翻訳の難を書いたが、全体としては世界全体の発展と現状の問題をうまくまとめており、特に健康面は類書があまりなく価値が高い。
副題の「格差」の話はあまり出ていない点だけは注意であろうか。
貧困国の発展に関心がある人は必読だと思う。
2015年12月18日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ピケッティに始まり、格差シリーズで色々読むようになりました。
その、きっかけになった本です。 大変面白かった。
その、きっかけになった本です。 大変面白かった。
2015年5月4日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
寿命や健康、体格が経済力にもろに影響されることを豊富な歴史データや
社会地理データを基に立証している稀有な本。
社会地理データを基に立証している稀有な本。
2019年12月17日に日本でレビュー済み
和訳に単純ミスが散見される上、厳密な言葉の使い分けに応じた訳出ができていない。また、本文中にアダム・スミスの引用が出てくるが、その訳本があるのにそれを用いず、単なる直訳っぽくなっていてわかりにくい(というか理解不可能)など、いろいろとひどい。細かいところは気にせずわかるところだけ読めればいいという人には良いかもしれないが・・・
2015年12月3日に日本でレビュー済み
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多くの事柄が、みな、そうじゃないのかな?って思っていることの追認のようにも思える内容ですが、それを確実にデータを集めて、現時点ではこう思えると、一線で研究している人が言ってくれるのは、重みが違う。値段が値段なだけに、少しでも理解できないところがあるとじっくり読んでしまう傾向が、、、。結果、読み終えるのにものすごく時間が掛かりました。