アーサー・ビナード著『知らなかった、ぼくらの戦争』を過日興味深く読み終え、氏のエッセイ『亜米利加ニモ負ケズ』を入手して読むことにした。
考えさせられるエッセイ、なるほどと納得させられたエッセイ、とにかくどのエッセイも面白く読ませてくれた。
評者は、「悪路の効果」というエッセイを読みはじめて驚いてしまったので下の・・・内に少し長くなるが転載したい。
・・・道が悪ければ悪いほど、その場所の魅力は増す。そんなことをぼくに教えてくれたのは、ジョン・ヴォルカーだった。
1903年ミシガン州の北部に生まれた彼は、弁護士になって地方検事に選ばれ、また才能が認められて州の最高判事に抜擢された。三年間、判事を立派につとめたのち、「やはり釣りのほうが大事だ」という結論に至り、辞表を出して地方へ戻った。「ロバート・トレイヴァー」というペンネームで小説とエッセイを書きながら、川の鱒たちとともに生きた。
彼の法廷小説の傑作『ある殺人』が、1959年に映画化されて、ジェームズ・スチャートが主演を演じた。すると、ハリウッドからいろんなラブコールが舞い込んできたが、ヴォルガ―氏はミシガンの北部を離れようとはしなかった。・・・(P50)
著者の父親がヴォルガ―氏のフライフィッシング小説を愛読していたことから友人を通して知り合い、お互い馬が合い一緒に釣りに行くようになった。
著者が10歳のときに穴場の釣り場についていった折に、ヴォルガ―氏が冒頭の「悪路の効果」を語ったのである。
評者は、このヴォルガ―氏の小説『裁判』(1986年4月7版)上・下巻を、2016年7月に本棚から取り出して久しぶりに再読していたのである(1959年に『錯乱』というタイトルで初刊行されていたが、『裁判』というタイトルで再版された)。
評者は、この映画にも興味を持ち『裁判』読了後『ある殺人』のDVDも入手して先年観てしまったのです。
映画は、小説ほどに感銘を受けるような出来ではなかったと、評者には思えたのですが、第32回アカデミー賞6部門にノミネートされたが受賞するまでに至らなかったのです。
「海狸ヶ丘白書」というエッセイでは、HollyとHolyの違いからハリウッドを日本語で「聖林」と造語したことなど初めて気がつかされた。
「大阪にひそむ鎌倉文化」というエッセイでは、おばあさんに尋ねたら「鎌倉さんの文化住宅はあそこや」というくだりを読んで大笑いしてしまった。
「匂い泥棒」というエッセイでは、氏のあくなき探究心から落語「しわい屋」から遡り、十六世紀のフランスの「匂い泥棒」という小噺を見つけ出して披露してくれていたから感心して読んでしまったのです。
本書のエッセイには、硬軟とりまぜ掲載されているから、うっかり読み流すことなどできないのである。
同じアメリカ人で長く日本在住のK・G氏と比べながら、興味深くページを繰ってしまったのです。
なぜなら、是は是、非は非という氏のニュートラルなスタンスの思想性に、評者はシンパシーを感じてしまったからです。
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亜米利加ニモ負ケズ 単行本 – 2011/1/1
アーサー ビナード
(著)
「ライト・ヴァース」=「軽みのある詩」の第一人者でエッセイの名手としても知られる著者が新聞・雑誌に発表してきた約60篇のエッセイを収録。日本語のアメリカと母国としてのUSAをひらりと往還し、現在の世相をちくりと刺す! 待望の最新エッセイ集!!
- 本の長さ251ページ
- 言語日本語
- 出版社日経BPマーケティング(日本経済新聞出版
- 発売日2011/1/1
- 寸法13.5 x 2.4 x 19.5 cm
- ISBN-104532167752
- ISBN-13978-4532167752
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登録情報
- 出版社 : 日経BPマーケティング(日本経済新聞出版; New版 (2011/1/1)
- 発売日 : 2011/1/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 251ページ
- ISBN-10 : 4532167752
- ISBN-13 : 978-4532167752
- 寸法 : 13.5 x 2.4 x 19.5 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 213,512位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 149位イギリス・アメリカのエッセー・随筆
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2018年2月14日に日本でレビュー済み
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2014年4月28日に日本でレビュー済み
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アーサービナードさんのお話を初めて聞いたのは、おそらく5,6年前のことだと思う。静かに語るその話に引き込まれるのに、時間はかからなかった。新しい視点を与えてくれ、知的好奇心を満たしてくれてるアーサーさんの話は、幅広く、奥深いものだった。その後、動画があれば見、本があれば買って読んでいた。今回、文庫本を買ったはいいが、単行本も持っているという失敗。でもいいのだ。これ「とっても面白いよ」と友人にあげた。本など、人にもらって面白かった試しがないので、人が欲しいと言わない限り、本をあげることなどないのだけれど、今回は、自信をもって「これ面白いよ」と言ってあげた。友人に喜ばれた。なので、自信をもっておすすめします。「この本面白いです!!」。
2013年4月20日に日本でレビュー済み
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宮沢賢治の「あめにもまけず・・・」が米国の郵便配達の人たちのモットーに酷似しているとは!
日本人以上に日本語に堪能・・・よく勉強しておられるビナードさんに脱帽!
日本人以上に日本語に堪能・・・よく勉強しておられるビナードさんに脱帽!
2014年1月5日に日本でレビュー済み
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物事を見るときに同じ視点でなく、いつも疑問に思いながら観察することで、仕組みが解ってくるものですね。
筆者は日本語や日本の文化を愛しておられますが、日本人のあいまいさ、いい加減さについてはどう思っているのでしょう。
筆者は日本語や日本の文化を愛しておられますが、日本人のあいまいさ、いい加減さについてはどう思っているのでしょう。
2012年12月2日に日本でレビュー済み
ビナードさんの出身であるミシガンやオハイオには住んだり、訪ねたことが何度もあるので、親しみがあり、書かれているエッセイにも彼の地での思い出やエピソードがの背景が想像しやすい。
その一方で異文化である日本や日本語への造詣をアメリカとアメリカ文化から見た意味のずれを卓抜な日本語エッセイに変えての日経夕刊に掲載された。その詩的でユーモラスな言語感覚は、日本語ながらアメリカ的でありながら、アメリカ社会の矜持を軽くて品よく描き出す、絶妙な日本語には脱帽である。
日本人でもここまでは知らないだろう、と思われることも、異文化の外国人には研究対象で、精緻に調査してみることはお互いにあるものだが、「名古屋のラーメン屋味仙(みせん)」まで引き合いに出しての日本語の「アメリカン」とアメリカのamericanを説明する件には、異文化比較へのバランスのいい尺度を見る。このバランスの良さが詩文のいい意味でのポップ感覚として具現化されているのだろう。
言葉の軽み、深みと重みを知るには絶好のエッセイ集。
その一方で異文化である日本や日本語への造詣をアメリカとアメリカ文化から見た意味のずれを卓抜な日本語エッセイに変えての日経夕刊に掲載された。その詩的でユーモラスな言語感覚は、日本語ながらアメリカ的でありながら、アメリカ社会の矜持を軽くて品よく描き出す、絶妙な日本語には脱帽である。
日本人でもここまでは知らないだろう、と思われることも、異文化の外国人には研究対象で、精緻に調査してみることはお互いにあるものだが、「名古屋のラーメン屋味仙(みせん)」まで引き合いに出しての日本語の「アメリカン」とアメリカのamericanを説明する件には、異文化比較へのバランスのいい尺度を見る。このバランスの良さが詩文のいい意味でのポップ感覚として具現化されているのだろう。
言葉の軽み、深みと重みを知るには絶好のエッセイ集。
2013年11月8日に日本でレビュー済み
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雨にも負けずを、欧米の文学者の視点からの指摘、面白かったです。「もったいない」から、山村暮鳥の詩に行き着くところ良かったです。
2011年3月21日に日本でレビュー済み
『
釣り上げては
』(2000年)で著者の日本語の美しさに魅かれて以来、その著作を折々に手にしてきました。この『亜米利加ニモ負ケズ』(2011年)も、著者の綴る言葉の一片一片が読む私の心に染みわたりました。
その日本語はしなやかであると同時に実に堅固。瑞々しくかつ練達。
追いたてられるかのような日々の暮らしの中で日本人自身が散らかし置きざりにしてきてしまった言葉のひとつひとつを、著者が後からやってきてゆっくりと、そして懸命に掬い上げ、その忘れ去られた原石の美しさを今一度引き出そうとするかのように磨き上げて私たちにそっと差し出してくれている。著者の綴る達意の日本語文は、私たちの目の前でまさにその光り輝く姿を見せるのです。私たちに猛省を促す毅然とした態度を感じさせる日本語を前にして、私は居住まいを正しながら読み続けました。
さらに著者は冷静で思慮深い洞察力、大胆で雄大な想像力、広範で膨大な知識を備えていて、それが文章に深みと味わいを一層与えているのです。
宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』とヘロドトスの『歴史』にある飛脚に関する記述の類似性。
平安期に小野小町が「花の色はうつりにけりな…」と詠んだ歌にある花と、19世紀にアメリカ人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが書いた詩『実行』にある薔薇の花との共鳴。
シェイクスピア『ヘンリー四世』のフォルスタッフの台詞にある「錆(さび)」と、山口誓子や中村草田男の句にある「黴(かび)」に共通する匂い。
時空を越えて数多(あまた)の人びとが考え綴った言葉の数々に著者は、人間が根っこにもつ感性には揺らぎも違いもないのだということを感じ取っているのです。
そのことに気づかせてくれたこの書に、私は大変大きな感銘と感謝の念を抱きました。
その日本語はしなやかであると同時に実に堅固。瑞々しくかつ練達。
追いたてられるかのような日々の暮らしの中で日本人自身が散らかし置きざりにしてきてしまった言葉のひとつひとつを、著者が後からやってきてゆっくりと、そして懸命に掬い上げ、その忘れ去られた原石の美しさを今一度引き出そうとするかのように磨き上げて私たちにそっと差し出してくれている。著者の綴る達意の日本語文は、私たちの目の前でまさにその光り輝く姿を見せるのです。私たちに猛省を促す毅然とした態度を感じさせる日本語を前にして、私は居住まいを正しながら読み続けました。
さらに著者は冷静で思慮深い洞察力、大胆で雄大な想像力、広範で膨大な知識を備えていて、それが文章に深みと味わいを一層与えているのです。
宮沢賢治の詩『雨ニモマケズ』とヘロドトスの『歴史』にある飛脚に関する記述の類似性。
平安期に小野小町が「花の色はうつりにけりな…」と詠んだ歌にある花と、19世紀にアメリカ人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズが書いた詩『実行』にある薔薇の花との共鳴。
シェイクスピア『ヘンリー四世』のフォルスタッフの台詞にある「錆(さび)」と、山口誓子や中村草田男の句にある「黴(かび)」に共通する匂い。
時空を越えて数多(あまた)の人びとが考え綴った言葉の数々に著者は、人間が根っこにもつ感性には揺らぎも違いもないのだということを感じ取っているのです。
そのことに気づかせてくれたこの書に、私は大変大きな感銘と感謝の念を抱きました。
2011年7月27日に日本でレビュー済み
「アメカリ人」とは著者が通っていた商店の「おばあちゃん」が本人を称したことばです。なぜそうなのかは、本書をご覧ください。
どんな人が書いたことであれ、日本についてうまく書かれていて、面白いものは面白いのです。アーサー・ビナードさんの著作でいつも思うのはこれです。漢字の読み方も含め(!)普通気づかないことをうまく表現しているからです。しかもオチを必ず入れる!これは日本のエッセイではあまりないのでは?うまくおとしてくれるのはそれぞれのトピックでの「日本語」あるいは「日本文化」を、研究者らしく調べまくるからなのでしょう。
しかも、それがアメリカ文化との軽い比較文化検証になっていて、両方を知るにはよい機会になります。
次の著作を待ってます。
どんな人が書いたことであれ、日本についてうまく書かれていて、面白いものは面白いのです。アーサー・ビナードさんの著作でいつも思うのはこれです。漢字の読み方も含め(!)普通気づかないことをうまく表現しているからです。しかもオチを必ず入れる!これは日本のエッセイではあまりないのでは?うまくおとしてくれるのはそれぞれのトピックでの「日本語」あるいは「日本文化」を、研究者らしく調べまくるからなのでしょう。
しかも、それがアメリカ文化との軽い比較文化検証になっていて、両方を知るにはよい機会になります。
次の著作を待ってます。