前半も後半も最新トピックの総覧的な内容です。
前半は、うつ病についての多方面からの解説を述べたもので、テンポよく簡潔にまとめ
られています。大まかな知識がある人に向けたコンパクトな概論です。
うつ病に関しては多くの人が様々なことを言っていて、どれが適切か(穏健か)が
よく分からないところがあったのですが、著者の見解は穏健でバランスの取れたところに
落ち着いているように思えました。
特にDSM分類の背後にある政治的な問題とDSMそれ自体の功績を述べた部分や、
多くの批判があるSSRIの位置づけについて述べた部分などは有益でした。
抗うつ薬への批判を知りつつも、現場では他の手段がなく、薬で短期間に改善して
職場復帰する人もいるとなれば、薬を使わない理由はないと言えそうです。
あのヒーリーだって薬を処方しています。
一方で、いったん投薬に頼ってしまえば、長期化して悪化する人が不可避に生じるとも
言えます。この批判を受けかねない自分の失敗例をあえて出したことに著者の誠実さを
感じました。
後半は、うつ病を精神的な現象面から捉えるほかない現在の状況を打破すべく、脳科学
による裏付けを目指した様々な取組の状況に触れられていています。
前半と同様に一定の前提知識がある人に最新トピックを紹介する内容になっています。
後半は事前に神経科学や脳科学について簡単な啓蒙書の知識を仕入れておくだけでも、
面白さが格段に上がると思います。
ただ、私はうつ病は脳の器質的な障害の要素よりも、心の落ち込みに対する対処スキル
やその経験値という脳の機能的な熟練度(メンタルの強さ)の要素が大きいと考えています。
器質的障害が主たる原因のうつ病患者は少ないと思われること、抗うつ薬の薬理効果に
疑わしい面が強いこと、認知行動療法で治る患者も多いこと、器質的障害に対する治療を
せずに回復する患者がほとんどであること、気分の落ち込みは人間が成長する過程で
誰でも遭遇し、人はそれを乗り越えて成長するものであることなどがその理由です。
その懐疑的な立場から見ても、BDNFや海馬などの種々の研究は興味深く、もしかしたら
という感じもしました。一方で、もともと存在した器質的障害がうつ病を引き起こしたのでは
なく、精神活動の低下による脳の活動の変化とそれによる代謝の変化などを計測したとの
批判を排除できるかとの視点で見ると微妙かなという感じもします。
精神疾患に遺伝的要素が関与していること、脳梗塞やパーキンソン病やホルモンの疾患で
うつ病が引き起こされることなどからは、器質的な原因でうつ病が引き起こされる症例も
少なくないと思います。けれどもそれは原因の一側面であって、患者の一部しか説明でき
ない可能性の方が高い、と今のところは考えています。
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うつ病の脳科学: 精神科医療の未来を切り拓く (幻冬舎新書 か 9-1) 新書 – 2009/9/1
加藤 忠史
(著)
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- ISBN-10434498143X
- ISBN-13978-4344981430
- 出版社幻冬舎
- 発売日2009/9/1
- 言語日本語
- 本の長さ245ページ
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登録情報
- 出版社 : 幻冬舎 (2009/9/1)
- 発売日 : 2009/9/1
- 言語 : 日本語
- 新書 : 245ページ
- ISBN-10 : 434498143X
- ISBN-13 : 978-4344981430
- Amazon 売れ筋ランキング: - 37,008位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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加藤忠史(かとう・ただふみ)
順天堂大学医学部精神医学講座/大学院医学研究科精神・行動科学 主任教授
1988年東京大学医学部卒業。同附属病院にて臨床研修。
1989年滋賀医科大学附属病院精神科助手。
1994年同大学にて博士(医学)取得。
1995~1996年文部省在外研究員としてアイオワ大学精神科にて研究に従事。
1997年東京大学医学部精神神経科助手、1999年同講師。
2001年理化学研究所脳科学総合研究センター(2018年より脳神経科学研究センター)精神疾患動態研究チーム チームリーダー
2020年4月より現職
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年10月12日に日本でレビュー済み
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今まで心理学や鬱関係の本を色々読んできましたが、ちょっとこちらの本は難しく感じました。
kindleでも本でも持っていますが、kindleで読み上げしてもらうのが一番頭に入ってきた気がしますが、またそのうち買った紙媒体の本の方も読み返してみたいです。
うつ病に関する精神科医が執筆した著書としては初心者には難しいと思いました。
kindleでも本でも持っていますが、kindleで読み上げしてもらうのが一番頭に入ってきた気がしますが、またそのうち買った紙媒体の本の方も読み返してみたいです。
うつ病に関する精神科医が執筆した著書としては初心者には難しいと思いました。
2018年1月11日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
熱い本です。
精神医学の現状、抱えているる問題・課題について明確に書かれています。どちらも一般向けで同じような内容ですが「岐路に立つ精神疾患」は、学術的というか少々カタイです。
日本の自殺者年間3万人の半数は、うつ病です。
休職の理由の筆頭は、うつ病です。
うつ病は、社会的なロスの多い病気です。
かって患者・家族を安心させるために、「脳が風邪を引いたようなもの」と言われた時期もありましたが、そんな単純な病気ではなく完治は難しいのが現実です。
一般向けのハウツー本やTVでよく見かけますが、うつ病にならないためには、スポーツなどでストレス発散してドーパミン分泌を促しましょう、とかリラックスしてストレス解消しでセロトニン分泌を促しましょうと言われます。
そんなレベルで治るような簡単な病気でありません。
マスコミが騒いで作った「新型うつ病」は病理学的には存在しません。
それまでバラバラだった精神疾患に共通診断基準を与えグローバルスタンダードを設定したアメリカ精神学会の精神疾患の診断基準(DSM)は、功罪相半ばです。
病状だけを診断基準にしたため簡単にうつ病の診断が下され過ぎで、健常者でも一時的に落ち込んでいる状態ではうつ病と診断されてしまうと大ブーイングです。
うつ病は、脳という臓器の障害であることは分かっていますが原因は特定できていません。
脳科学研究、画像、ゲノム研究などで、遺伝子の特定など徐々に解明されている点もありますが、顕著な治療に結びつくような成果はありません。
糖尿病のように血糖値を調べれば判る診断方法もありません。
血液検査で、精神疾患の病因はわかりません。
ガンであれば幹部の一部を切除して検査もできますが、生きた人間の脳の一部を切り取って調べるわけにはいきません。
骨髄バンクのようなブレインバンクは、ほとんどありません。
日本ではアメリカから精神疾患患者の脳を分けてもらって研究しています。
治療方法も医師の問診、投薬と100年前から変わりません。
診断は、患者の話から類推していくしかありません。
診断は個々の医師の腕によりバラツキが多く、短い治療時間、大量の投薬、長期にわたり効果のない治療などで患者と家族の医療に対する不信感は根強いものがあります。
日本では、学園闘争の余波で精神疾患研究が遅れました。
日本で札幌医大の心臓移植手術が、社会問題になり臓器移植研究、臨床手術が遅れたのと同じ現象です。
臓器移植で治る病気も日本では手術ができる医療体制がなく渡航費・高い手術費を負担して、この方面で進んでいるアメリカへ行って手術が行われ、患者はその恩恵にあずかっています。
本の巻末の参考文献は、大半がアメリカなど外国のものです。
医学論文も、ガンなどの論文に比べ数が少なく、日本の精神疾患の力量は低レベルです。
ガン研究が世界的なレベルなのは、国をあげて体制を作り予算を組み人材確保に努めた成果です。
著者は、ブレインバンク、国家レベルの10年プロジェクト創設などのロードマップを提案しています。
これらの提言が実現されることを祈ります。
うつ病は、先進国に特有の疾病です。
有効な治療法が確立され成果が上がれば、いずれは新幹線技術・公害防止技術・水道技術のようにキャッチアップしてくる国々に国際貢献できる日本が誇ることのできる輸出技術となるでしょう。
精神医学の現状、抱えているる問題・課題について明確に書かれています。どちらも一般向けで同じような内容ですが「岐路に立つ精神疾患」は、学術的というか少々カタイです。
日本の自殺者年間3万人の半数は、うつ病です。
休職の理由の筆頭は、うつ病です。
うつ病は、社会的なロスの多い病気です。
かって患者・家族を安心させるために、「脳が風邪を引いたようなもの」と言われた時期もありましたが、そんな単純な病気ではなく完治は難しいのが現実です。
一般向けのハウツー本やTVでよく見かけますが、うつ病にならないためには、スポーツなどでストレス発散してドーパミン分泌を促しましょう、とかリラックスしてストレス解消しでセロトニン分泌を促しましょうと言われます。
そんなレベルで治るような簡単な病気でありません。
マスコミが騒いで作った「新型うつ病」は病理学的には存在しません。
それまでバラバラだった精神疾患に共通診断基準を与えグローバルスタンダードを設定したアメリカ精神学会の精神疾患の診断基準(DSM)は、功罪相半ばです。
病状だけを診断基準にしたため簡単にうつ病の診断が下され過ぎで、健常者でも一時的に落ち込んでいる状態ではうつ病と診断されてしまうと大ブーイングです。
うつ病は、脳という臓器の障害であることは分かっていますが原因は特定できていません。
脳科学研究、画像、ゲノム研究などで、遺伝子の特定など徐々に解明されている点もありますが、顕著な治療に結びつくような成果はありません。
糖尿病のように血糖値を調べれば判る診断方法もありません。
血液検査で、精神疾患の病因はわかりません。
ガンであれば幹部の一部を切除して検査もできますが、生きた人間の脳の一部を切り取って調べるわけにはいきません。
骨髄バンクのようなブレインバンクは、ほとんどありません。
日本ではアメリカから精神疾患患者の脳を分けてもらって研究しています。
治療方法も医師の問診、投薬と100年前から変わりません。
診断は、患者の話から類推していくしかありません。
診断は個々の医師の腕によりバラツキが多く、短い治療時間、大量の投薬、長期にわたり効果のない治療などで患者と家族の医療に対する不信感は根強いものがあります。
日本では、学園闘争の余波で精神疾患研究が遅れました。
日本で札幌医大の心臓移植手術が、社会問題になり臓器移植研究、臨床手術が遅れたのと同じ現象です。
臓器移植で治る病気も日本では手術ができる医療体制がなく渡航費・高い手術費を負担して、この方面で進んでいるアメリカへ行って手術が行われ、患者はその恩恵にあずかっています。
本の巻末の参考文献は、大半がアメリカなど外国のものです。
医学論文も、ガンなどの論文に比べ数が少なく、日本の精神疾患の力量は低レベルです。
ガン研究が世界的なレベルなのは、国をあげて体制を作り予算を組み人材確保に努めた成果です。
著者は、ブレインバンク、国家レベルの10年プロジェクト創設などのロードマップを提案しています。
これらの提言が実現されることを祈ります。
うつ病は、先進国に特有の疾病です。
有効な治療法が確立され成果が上がれば、いずれは新幹線技術・公害防止技術・水道技術のようにキャッチアップしてくる国々に国際貢献できる日本が誇ることのできる輸出技術となるでしょう。
2013年8月27日に日本でレビュー済み
生物学的精神医学のオピニオン・リーダーの最近作。「心の病は脳の病」の信念の下、精神科診療を脳科学に結び付けることで改革を目指すスタンスは、小気味よいほどに明快だ。ただし、科学者社会が共有する出鱈目ぶりを一部で踏襲してしまっているので、星3つ。
著者は、最初の方で、「脳の基本原則」と称して、次の7箇条をあげている。
1 脳は「心」という働きを生み出す臓器である。
2 脳はさまざまな細胞からできている。
3 神経細胞には突起がある。
4 神経細胞は興奮する。
5 脳は場所によって働きが違う。
6 神経細胞の隙間であるシナプスでは神経伝達物質が働く。
7 脳は変化する。
2〜7は、実証に基づく科学的知見だから、これはいい。ところが1について、こんなことを解説している。
「脳と心は別のものか、同じものか、という議論があるが、これは意味がない。『時計』と『時間』は別のものか、という問いと同じである。時計という物体の機能が、時間を刻むことなのであり、物体と機能が同じものかと議論することには意味がない。」
これは論理的混乱以外の何ものでもない。前半で「時間」と言っておきながら、後半で「時間を刻むこと」にすり替えている。明らかに「時計」と「時間」は別物なのに、このすり替えによって、「時計」と「時間を刻むこと」が物体と機能の関係にある故に「時計」と「時間」も同様の関係にあり、同じか別物かの議論は意味がない、という主張になってしまっている。このようなデタラメな論理を脳科学を騙って主張することは、科学者として許されない。
とはいえ、実は、“心は脳の機能”とは、医学界を始めとする科学者社会の標準的見解なのだから困ったことだ。そもそも、日本語として意味不明ではないか!
思うに、“心は脳の機能”論者の(多分)言いたいことは、
'(1)「あるシステムが、脳によって可能になる高度な適応的行動を示す時、そのシステムに私たちは心の存在を感じ取る」‥‥科学的に言えることは本来、ここまで。
'(2)「心の機能は脳の機能によって可能になる(略:心は脳によって可能になる)」。ゆえに「脳が心を生み出す」。
'(3)「心の機能は脳の機能である」。ゆえに「心は脳である」。
の3つのうちのどれかだと思われる。
' (3)がこの著者の、そして多くの科学者の(多分)本音なのに、なぜ「心は脳の機能」といった、意味不明のフレーズでごまかすのか。
その理由は、本音を言うと、「それでは、心は脳(=物質)なら、心は存在しないのか?」と問いかえされるから。もしくは、自分でもどこか納得しきれないところがあるから、ということだろう。
もっとも、'(2)にあたる見解を採る脳科学者もいる。「『こころや意識というものは脳の中にあり、脳がはたらくことによって生み出されている」ということについては、ほとんどの脳科学者は疑っていません。』(宮川剛*『「こころ」は遺伝子でとこまできまるのか』)*心理学科出身
ただし、これだとやはり、「それでは心は脳とは別物か?」という問題が出てくる。楽器がはたらくことによって音楽が生み出されるからといって、楽器と音楽は同じだというわけではないから。
私見だが、「(声帯を含めた広義の)楽器が音楽を奏でる」のと、「脳は心を生み出す」の間には、単なる比喩以上の共通点があるではないか。
脳という楽器が心という音楽を生み出す!
著者は、最初の方で、「脳の基本原則」と称して、次の7箇条をあげている。
1 脳は「心」という働きを生み出す臓器である。
2 脳はさまざまな細胞からできている。
3 神経細胞には突起がある。
4 神経細胞は興奮する。
5 脳は場所によって働きが違う。
6 神経細胞の隙間であるシナプスでは神経伝達物質が働く。
7 脳は変化する。
2〜7は、実証に基づく科学的知見だから、これはいい。ところが1について、こんなことを解説している。
「脳と心は別のものか、同じものか、という議論があるが、これは意味がない。『時計』と『時間』は別のものか、という問いと同じである。時計という物体の機能が、時間を刻むことなのであり、物体と機能が同じものかと議論することには意味がない。」
これは論理的混乱以外の何ものでもない。前半で「時間」と言っておきながら、後半で「時間を刻むこと」にすり替えている。明らかに「時計」と「時間」は別物なのに、このすり替えによって、「時計」と「時間を刻むこと」が物体と機能の関係にある故に「時計」と「時間」も同様の関係にあり、同じか別物かの議論は意味がない、という主張になってしまっている。このようなデタラメな論理を脳科学を騙って主張することは、科学者として許されない。
とはいえ、実は、“心は脳の機能”とは、医学界を始めとする科学者社会の標準的見解なのだから困ったことだ。そもそも、日本語として意味不明ではないか!
思うに、“心は脳の機能”論者の(多分)言いたいことは、
'(1)「あるシステムが、脳によって可能になる高度な適応的行動を示す時、そのシステムに私たちは心の存在を感じ取る」‥‥科学的に言えることは本来、ここまで。
'(2)「心の機能は脳の機能によって可能になる(略:心は脳によって可能になる)」。ゆえに「脳が心を生み出す」。
'(3)「心の機能は脳の機能である」。ゆえに「心は脳である」。
の3つのうちのどれかだと思われる。
' (3)がこの著者の、そして多くの科学者の(多分)本音なのに、なぜ「心は脳の機能」といった、意味不明のフレーズでごまかすのか。
その理由は、本音を言うと、「それでは、心は脳(=物質)なら、心は存在しないのか?」と問いかえされるから。もしくは、自分でもどこか納得しきれないところがあるから、ということだろう。
もっとも、'(2)にあたる見解を採る脳科学者もいる。「『こころや意識というものは脳の中にあり、脳がはたらくことによって生み出されている」ということについては、ほとんどの脳科学者は疑っていません。』(宮川剛*『「こころ」は遺伝子でとこまできまるのか』)*心理学科出身
ただし、これだとやはり、「それでは心は脳とは別物か?」という問題が出てくる。楽器がはたらくことによって音楽が生み出されるからといって、楽器と音楽は同じだというわけではないから。
私見だが、「(声帯を含めた広義の)楽器が音楽を奏でる」のと、「脳は心を生み出す」の間には、単なる比喩以上の共通点があるではないか。
脳という楽器が心という音楽を生み出す!