凄まじい本、凄まじい自叙伝、凄まじいノンフィクションである。
この本を読む前と、読んだ後で、自分の中の大きな何かが変わってしまった……という人も多いのではないか。
実際に私は大きく変わってしまった。
それは、キツく、辛いことでもある。
たとえば、今でもこの日本で、キューバの独裁者・カストロについての本はたくさん出ている。
基本的にほとんどの本が、「英雄カストロ」という視点である。
この本を読むまで私もそう思っていた。
勝手に、いつのまにか思い込んで、思い込まされていた。
しかし、このレイナルド・アレナスの魂の叫びである『夜になるまえに』を読み終えた後では、そう思い込んでいた自分自身を殴りつけたいほどの気持ちになった。
一冊の読書体験でここまでの衝撃を受けたのは、この『夜になるまえに』が初めてだった。
この本は決して政治的でもなければ、思想的でもない。
ひとりの人間の根源的な叫びである。
その人、アレナスは、ただひとつのことを叫んでいる。
それは、「自由」ということだ。
自由とは、いかに危険で、いかに激しく、いかに愛おしく、いかに困難で、いかに素晴らしいものなのか。
それだけを彼は命をぎりぎりまで削って訴えている。
たぶんこれから一生、何度も何度もこの本を読むと思う。
たぶん読むたびに何回も自分の心が切り刻まれ、吐き気をもおすだろうけど、この本だけは手放せないと思う。
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夜になるまえに 単行本 – 2001/9/1
- 本の長さ428ページ
- 言語日本語
- 出版社国書刊行会
- 発売日2001/9/1
- ISBN-104336037795
- ISBN-13978-4336037794
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商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
極貧の幼年時代、カストロに熱狂したキューバ革命、作家としてのデビュー、そして投獄。自由を求めて脱獄を重ね、最後は難民にまぎれてアメリカへ亡命した作家が、死の直前に語りおろした破天荒な自伝。1997年刊の新装版。
登録情報
- 出版社 : 国書刊行会 (2001/9/1)
- 発売日 : 2001/9/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 428ページ
- ISBN-10 : 4336037795
- ISBN-13 : 978-4336037794
- Amazon 売れ筋ランキング: - 521,381位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 125位スペイン・ポルトガル文学研究
- - 90,652位ノンフィクション (本)
- カスタマーレビュー:
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2011年1月12日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2008年12月10日に日本でレビュー済み
共産国家では、国民は監視する側とされる側に二分される。監視される側は、カンボジアが典型だが、虐殺されることもある。殺されないだけ、生きていけるだけ幸せという状況が待っている。こうした狂気の国家は、ソ連から始まり、中国、北朝鮮へと続く訳だが、そうした国で作家がどういう運命を辿るのか、一種の典型例としてこの本は教えてくれる。今もなお、キューバや北朝鮮では国民が奴隷労働させられているのか、と考えると、一人の体験談だが、読後感は余りにも重い。
2014年12月13日に日本でレビュー済み
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無機質な「本」という媒体で著者の壮絶な人生を淡々と振り返っていく自伝小説というジャンルにおいて、これほどまでに著者の激情が垣間見える作品というのも、なかなか珍しい。陳腐な表現になるが、正しくこれこそが魂の籠った作品と呼ぶべきものなのだろう。
著者、レイナルド・アレナスは、野生に育ち、現代人から見れば理不尽極まりない劣悪な環境の中で生き、他者の死を通じて生を感じ、また同時に性に目覚める。
しかし彼とともに成長してきた友人は大方死に、または生きるためにアイデンティティーを自ら放棄する。この本にはそうさせた社会への憤りが字面から湧き上がってくるようにさえ感じる。
しかし彼はその中にも希望を見出し、死と隣り合わせの生を突き進み続ける。
そしてその先でみた資本主義という新たな社会の形から、彼は真に自由になれたのか。その真相はこの作品に綴られているような気もするし、しないような気もする。
この作品は、思想の良し悪しを判断するための教科書的な本ではなく、社会から、時代から、世界から、自由を勝ち取るために動き続けた一人の勇気ある表現者の、行き場のない心の叫びを紙にぶつけたもの。そんな解釈をせざるを得ないほどの気迫が、この本からは溢れていた。
著者、レイナルド・アレナスは、野生に育ち、現代人から見れば理不尽極まりない劣悪な環境の中で生き、他者の死を通じて生を感じ、また同時に性に目覚める。
しかし彼とともに成長してきた友人は大方死に、または生きるためにアイデンティティーを自ら放棄する。この本にはそうさせた社会への憤りが字面から湧き上がってくるようにさえ感じる。
しかし彼はその中にも希望を見出し、死と隣り合わせの生を突き進み続ける。
そしてその先でみた資本主義という新たな社会の形から、彼は真に自由になれたのか。その真相はこの作品に綴られているような気もするし、しないような気もする。
この作品は、思想の良し悪しを判断するための教科書的な本ではなく、社会から、時代から、世界から、自由を勝ち取るために動き続けた一人の勇気ある表現者の、行き場のない心の叫びを紙にぶつけたもの。そんな解釈をせざるを得ないほどの気迫が、この本からは溢れていた。
2014年1月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
作者は『百年の孤独』のガルシア・マルケスに並ぶ南米文学の雄である、という触れ込みが気になって、読んでみました。
「あいつよりもおれのほうが才能がある」
「ホモは虐げられてばかりだ。ホモにだって生きる喜びはある」
「だれも俺の才能を認めてくれない」
こういう言葉の中に、何かぐっとくるものがあればいいのですが、どうにもただただ愚痴が連ねられている印象しか持てませんでした。残念。
「あいつよりもおれのほうが才能がある」
「ホモは虐げられてばかりだ。ホモにだって生きる喜びはある」
「だれも俺の才能を認めてくれない」
こういう言葉の中に、何かぐっとくるものがあればいいのですが、どうにもただただ愚痴が連ねられている印象しか持てませんでした。残念。
2020年4月29日に日本でレビュー済み
カストロ政権下で自由を侵害されアメリカに亡命したキューバの作家の自伝である。まだエイズ予防知識が認知されず不治の病だった時代であり、著者も性行為によりエイズに罹患して合併症を発症している。そのためであろう、死の影が色濃い自伝である。私は寡聞にして同著者の他の作品を読んだことがない。本書から伝わるのは、「物語」を持つ「人間」の話であること、個人の、家族の、社会の、国家の「物語」を持つ「人間」の話である。
キューバのバティスタ独裁政権の時代の頃を、幼少期を、著者はあふれる自然と喧噪に包まれた力強い描写で表す。ホモを自覚するのもこの頃なのだが、牝馬、豚、雌鶏、七面鳥、パパイヤの木、メロン、カボチャ、牡鶏、海を使ってオナニーするとかいきなり理解しがたい事を言ってくる。また、嵐で氾濫する川を見て興奮するとともに「ぼくもその水に飛び込んで消えなくちゃいけない」と考えるなど生と死が妙に近い。本当に幼少期にそう思っていたのか、執筆時期に死を覚悟していたためかは定かではない。多分どっちも正しい。
著者の母親はシングルマザーで、どうも我が子をネグレクトしてたようだ。でも著者が母親を恨んでいる描写はほぼ無く、どちらかというと親愛と同情と共感に満ちている。母親が出稼ぎして遠方で子守仕事する姿を思い浮かべ「ぼくにはほとんど見せるゆとりのなかった母が、たぶん見せるのが恥ずかしかったのだろうが、優しさと愛情を与えようとしているところ」を想像している。殊更描写するわけではないが、著者が垣間見せる自由を制限された他者への優しさが、実の母にも降り注いでいる。いいやつ。
ものすごくホモがたくさん出てくる。「金玉」とか「~(男)と楽しんだ」とか何回読んだかわからない。「革命は男優位の社会に特有のありとあらゆる偏見を称揚することになった」とのことだが、とにかく異常なホモの多さとすさまじいまでのホモの弾圧である。ホモについて、著者はキューバとアメリカの違いを述べている。アメリカでは「同性愛の世界にカテゴリーというか区分(中略)がある」のに対し、キューバでは「そうした仕切りがなかったため、男と関係を持つのにホモになる必要がなかった。(中略)正常な行為として男との関係を持ちえた」との事。想像するしかないのだが、海でオナニーできる位だから美しいものなら誰でも性的なコミュニケーションがとれたという事だろうか。今日アメリカでも本邦でも、LGBTQの認知がなされてきているとはいえ未だ同性愛は秘められた禁断の恋愛の感があり、どうも孤独を確かめ合うような所がある。著者のホモ像は不思議とカラッとしている。
社会主義国家としてのキューバの描写がえげつない。全体主義、思想弾圧と投獄、強制労働、密告、市井に混じるスパイなどごりごりのソビエト連邦支配下の国であった。村上龍の著作や映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「モーターサイクル・ダイアリーズ」では描かれてこなかったキューバだった。著者がアメリカ亡命後、カストロらによる革命を称賛する「贅沢な共産主義者」にぶち切れる描写がある。私も「贅沢な共産主義者」の一人だったのだと気付く。
著者のキューバ人評がある。「キューバ人には破壊主義的なところが、人を妬むような傾向がある。一般的に大多数の人は偉大さに我慢ならないし、誰かが突出することに耐えられず、あらゆる人を同じ凡人のレヴェルに揃えようとしたがる」。日本人と同じじゃないか。本邦でも(犠牲になったのは共産主義者だが)戦時中の治安維持法でキューバと同じような弾圧があった。この異常さは私にわりと地続きな話なのだと感じた。権力が与えられると、人はおそらく平気で他者の自由を侵害するようになれるのだろう。「モーターサイクル・ダイアリーズ」で描写されるカストロに、ゲバラとともに革命を決意する若き日のカストロに何があって独裁者になったのかはわからない。国家運営上必要な事だったのかもしれないが、自由を侵害された多くの被弾圧者がキューバにいた。たくさんのレイナルド・アレナスがいたということだ。私と地続きな世界で。
補稿として「別れの手紙」の章がついているが、蛇足に感じるくらい本文最後の一文がかっこいい。まるで三島由紀夫「豊饒の海」を通しで全部読んだ時のような静けさがあった。愛おしいまでの「人間」の「物語」だった。
キューバのバティスタ独裁政権の時代の頃を、幼少期を、著者はあふれる自然と喧噪に包まれた力強い描写で表す。ホモを自覚するのもこの頃なのだが、牝馬、豚、雌鶏、七面鳥、パパイヤの木、メロン、カボチャ、牡鶏、海を使ってオナニーするとかいきなり理解しがたい事を言ってくる。また、嵐で氾濫する川を見て興奮するとともに「ぼくもその水に飛び込んで消えなくちゃいけない」と考えるなど生と死が妙に近い。本当に幼少期にそう思っていたのか、執筆時期に死を覚悟していたためかは定かではない。多分どっちも正しい。
著者の母親はシングルマザーで、どうも我が子をネグレクトしてたようだ。でも著者が母親を恨んでいる描写はほぼ無く、どちらかというと親愛と同情と共感に満ちている。母親が出稼ぎして遠方で子守仕事する姿を思い浮かべ「ぼくにはほとんど見せるゆとりのなかった母が、たぶん見せるのが恥ずかしかったのだろうが、優しさと愛情を与えようとしているところ」を想像している。殊更描写するわけではないが、著者が垣間見せる自由を制限された他者への優しさが、実の母にも降り注いでいる。いいやつ。
ものすごくホモがたくさん出てくる。「金玉」とか「~(男)と楽しんだ」とか何回読んだかわからない。「革命は男優位の社会に特有のありとあらゆる偏見を称揚することになった」とのことだが、とにかく異常なホモの多さとすさまじいまでのホモの弾圧である。ホモについて、著者はキューバとアメリカの違いを述べている。アメリカでは「同性愛の世界にカテゴリーというか区分(中略)がある」のに対し、キューバでは「そうした仕切りがなかったため、男と関係を持つのにホモになる必要がなかった。(中略)正常な行為として男との関係を持ちえた」との事。想像するしかないのだが、海でオナニーできる位だから美しいものなら誰でも性的なコミュニケーションがとれたという事だろうか。今日アメリカでも本邦でも、LGBTQの認知がなされてきているとはいえ未だ同性愛は秘められた禁断の恋愛の感があり、どうも孤独を確かめ合うような所がある。著者のホモ像は不思議とカラッとしている。
社会主義国家としてのキューバの描写がえげつない。全体主義、思想弾圧と投獄、強制労働、密告、市井に混じるスパイなどごりごりのソビエト連邦支配下の国であった。村上龍の著作や映画「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「モーターサイクル・ダイアリーズ」では描かれてこなかったキューバだった。著者がアメリカ亡命後、カストロらによる革命を称賛する「贅沢な共産主義者」にぶち切れる描写がある。私も「贅沢な共産主義者」の一人だったのだと気付く。
著者のキューバ人評がある。「キューバ人には破壊主義的なところが、人を妬むような傾向がある。一般的に大多数の人は偉大さに我慢ならないし、誰かが突出することに耐えられず、あらゆる人を同じ凡人のレヴェルに揃えようとしたがる」。日本人と同じじゃないか。本邦でも(犠牲になったのは共産主義者だが)戦時中の治安維持法でキューバと同じような弾圧があった。この異常さは私にわりと地続きな話なのだと感じた。権力が与えられると、人はおそらく平気で他者の自由を侵害するようになれるのだろう。「モーターサイクル・ダイアリーズ」で描写されるカストロに、ゲバラとともに革命を決意する若き日のカストロに何があって独裁者になったのかはわからない。国家運営上必要な事だったのかもしれないが、自由を侵害された多くの被弾圧者がキューバにいた。たくさんのレイナルド・アレナスがいたということだ。私と地続きな世界で。
補稿として「別れの手紙」の章がついているが、蛇足に感じるくらい本文最後の一文がかっこいい。まるで三島由紀夫「豊饒の海」を通しで全部読んだ時のような静けさがあった。愛おしいまでの「人間」の「物語」だった。
2009年2月20日に日本でレビュー済み
「キューバのブルジョワは、黒人の出であるバティスタを嫌い、イエズス会の学校で学びスペイン人農場主の息子であるカストロを支持した」(P.72)
「決起した人々の大半はバティスタ独裁があれほど速く崩壊するとは思っていなかった。バティスタが出国したというニュースが広まったとき、ぼくたちの多くは信じなかった。カストロ自身でさえびっくりして飛び上がった人間の一人だった。戦わないうちに戦いに勝ってしまった。カストロはもっとバティスタに感謝しなくてはならなかったのだ。独裁者は島を無傷のまま残し、カストロに傷一つ負わさずに出国したのだから」(P.78)
「ゲバラのスキャンダラスなホモ生活はキューバ中で、特にハバナでは衆知のことだが、他の者なら高くつくことはあっても、ゲバラほどの人物ともなると何をしても責任を問われなかった」(P.120)
「単に政治的姿勢のせいでボルヘスはノーベル文学賞を阻止されたのだ。ボルヘスは今世紀の最も重要なラテンアメリカの作家の一人である。たぶんいちばん重要な作家である。だが、ノーベル賞はフォークナーの模倣、カストロの個人的な友人、生まれながらの日和見主義者であるガブリエル・ガルシア=マルケスに与えられた。その作品はいくつか美点がないわけではないが、安物の人民主義が浸透しており、忘却の内に死んだり軽視されたりしてきた偉大な作家たちの高みには達していない」(P.390)
「決起した人々の大半はバティスタ独裁があれほど速く崩壊するとは思っていなかった。バティスタが出国したというニュースが広まったとき、ぼくたちの多くは信じなかった。カストロ自身でさえびっくりして飛び上がった人間の一人だった。戦わないうちに戦いに勝ってしまった。カストロはもっとバティスタに感謝しなくてはならなかったのだ。独裁者は島を無傷のまま残し、カストロに傷一つ負わさずに出国したのだから」(P.78)
「ゲバラのスキャンダラスなホモ生活はキューバ中で、特にハバナでは衆知のことだが、他の者なら高くつくことはあっても、ゲバラほどの人物ともなると何をしても責任を問われなかった」(P.120)
「単に政治的姿勢のせいでボルヘスはノーベル文学賞を阻止されたのだ。ボルヘスは今世紀の最も重要なラテンアメリカの作家の一人である。たぶんいちばん重要な作家である。だが、ノーベル賞はフォークナーの模倣、カストロの個人的な友人、生まれながらの日和見主義者であるガブリエル・ガルシア=マルケスに与えられた。その作品はいくつか美点がないわけではないが、安物の人民主義が浸透しており、忘却の内に死んだり軽視されたりしてきた偉大な作家たちの高みには達していない」(P.390)
2007年3月9日に日本でレビュー済み
ゲイである事、不埒な作家であること、反革命的であること。何れも許される事がない国、キューバ。
迫害故にそこから亡命し、エイズの病苦からNYで自死した流浪の作家であるレイナルド・アレナス。これは彼の死の直前の自伝だ。
この驚くべきエネルギーに満ちた小説(そう呼んで差し支えない)を書き上げた時点で、アレナスは深くエイズに身体を侵されている。
男たち、彼らとのセックス、弾圧、投獄、亡命。
口述と筆記から書かれた本書は、全体が混沌とした描写と錯綜した記憶の断片で埋め尽くされている。
日付も無く、時系列もあまり意識されていない。自らも体験したであろう、世界を動かした歴史的事件にも、触れない。
そもそも、事実なのかどうかさえ疑わしい事柄も数多く記述され、島田雅彦が推薦文で語るように、世界は「古代人の言葉」で埋め尽くされる。
アレナスは病に打ちのめされた体で、怒り、絶望し、呪い、耐え難い望郷と郷愁と呪詛を同時に叫んでいる。
あまりにも死期を意識しすぎたか、かれの天性の才である、うねり、ほとばしる言葉のリズムが、ここでは崩れがちだ。
だが、それによってこの本が陰惨なものになる事はない。
嘆きではなく、描写そのものに発狂寸前とも言うべきユーモアが満ちているからだ。
結果として、驚くべき事にこれは正統的なピカレスク小説としても存在し得ている
(古代叙事詩!)。
カリブの赤い島、そこから逃げ出した1人のホモが生んだ奇跡。
小説としての純然たる達成度はかれの他の著作に譲るだろう。
だが、間違いなく、「夜になるまえに」はアレナスの最高傑作のひとつである。
迫害故にそこから亡命し、エイズの病苦からNYで自死した流浪の作家であるレイナルド・アレナス。これは彼の死の直前の自伝だ。
この驚くべきエネルギーに満ちた小説(そう呼んで差し支えない)を書き上げた時点で、アレナスは深くエイズに身体を侵されている。
男たち、彼らとのセックス、弾圧、投獄、亡命。
口述と筆記から書かれた本書は、全体が混沌とした描写と錯綜した記憶の断片で埋め尽くされている。
日付も無く、時系列もあまり意識されていない。自らも体験したであろう、世界を動かした歴史的事件にも、触れない。
そもそも、事実なのかどうかさえ疑わしい事柄も数多く記述され、島田雅彦が推薦文で語るように、世界は「古代人の言葉」で埋め尽くされる。
アレナスは病に打ちのめされた体で、怒り、絶望し、呪い、耐え難い望郷と郷愁と呪詛を同時に叫んでいる。
あまりにも死期を意識しすぎたか、かれの天性の才である、うねり、ほとばしる言葉のリズムが、ここでは崩れがちだ。
だが、それによってこの本が陰惨なものになる事はない。
嘆きではなく、描写そのものに発狂寸前とも言うべきユーモアが満ちているからだ。
結果として、驚くべき事にこれは正統的なピカレスク小説としても存在し得ている
(古代叙事詩!)。
カリブの赤い島、そこから逃げ出した1人のホモが生んだ奇跡。
小説としての純然たる達成度はかれの他の著作に譲るだろう。
だが、間違いなく、「夜になるまえに」はアレナスの最高傑作のひとつである。