名もない作り手による建築と言うが、そこには含意がある。その地に根差した気候、地形、慣習、生活が作り手、設計者になっている。そして数百年の歴史が建築の信頼性を支え、パトロンとでも言えるだろうか。本書はそういう趣旨が底に流れているので、現代のテクノロジーによる建築、さらには科学的なものに批判の目を向けている。
それにしても1984年刊行で今や第16刷と長らく読まれ、ロングセラーのようだ。この本のもつ普遍的な思想がその理由なのだろう。
ただ、そんなに堅くならなくても、この本は楽しめる。建築写真はとにかく感銘を与えるような強い意味を持たせていて、しばらく目が離せないものばかりである。全て白黒写真だが、かえって陰影が強調され、場の情景に含まれる意味を表に浮き立たせている。これらの写真はもちろん写実的ではあるが、同時に情景の意味もあらわにしているので観念的、芸術的でもある。38, 54, 55, 71の写真は同じ建築物の連続によって、景観の統一性を生んで生活の安定や共同の意味合いを持たせているようである。41のドゴン族集落の写真はその連続性から強いエネルギーを感じられる。一方52のスペイン、ソタルバの城塞、87のギリシャ、シモン・ペトラの写真はそれだけで存在感がある。
カラー写真で何でもかんでも見えすぎているのに慣れきってしまって、白黒写真でこうして見えないところ、陰に隠れて見えすぎないのもわるくない。
審美とともに機能性も際立っていたのが、113-115のパキスタン、シンドの風を取り込む建築。同じ方向から風が吹いてくるため、風受けが全て同じ方向に建っていて壮観である。中国の地下住居群(16, 17)も四角い縦穴が無数に開いて、希有な景色を見せている。地下住居は虫もいなくて冬暖かく夏は涼しいという。
日本の建築も登場する。153では「まったく魔術的な効果が素朴な手段によって生み出される」として竹による半球天井が紹介されている。
引き算の建築ということで、巨岩を削って造形されたものも数多く出てくる。トルコやフランスなどのその造形には掘削の凄さから生活・生存への飽くなき欲求すら感じる。そこには信仰への欲求もあるのだろう。
本書は科学一辺倒に走る建築に警鐘を鳴らしていて、科学以外の自然、風土に立脚した建築の見直しを促す。科学技術に慣れてしまってこれ以上の快適さはあるのかと、にわかに回帰しようとは思わないが、自然を全て遮断する科学ではなく、自然と共に暮らすというパラダイムシフトがあれば、いろいろ参考になることはありそうだ。何百年もその建築で暮らしてきた人々の存在は、快適さの証明にもなるだろう。
p160のところで、名もない石工は技術的な制約の中で無限の多様性と調和を生み出すが、現代の建築家は多様な技術と材料を持ちながら、単調と不調和を生み出していると、厳しい批判を投げかけている。確かにヨーロッパにあるような見栄えのする建築都市があれば、日本もまた印象は変わってくるのだろう。
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建築家なしの建築 (SD選書 184) (SD選書 (184)) 単行本 – 1984/1/25
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副題に「系図なしの建築についての小さな手引書」とあるとおり、本書は世界各地の無名の工匠たちによる風土に根ざした土着建築を一堂に会してパノラマ的に紹介した図集である。ルドフスキー自身が語るように、これは「私たちの建築的な偏見を探検する旅の出発点を示す」「一種の旅行案内」なのである。
------------------------------
目次
ムユ—ユレイ(Muyu-uray)の円形劇場
死者の家
オルデクの死者の都
穴居生活
住居は下に、田畑は上に
建築家としての自然
引き算による建築
イタリアの丘陵都市
モデル的な丘陵都市
水の都市
遊牧民の建築
原始的な形態
都市の構造
古典的風土性
アーケード
半ば覆われた街路
小規模の穀倉
象徴的風土性
草の構造体
牧歌的建築
可動建築
民芸的妙技/他
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目次
ムユ—ユレイ(Muyu-uray)の円形劇場
死者の家
オルデクの死者の都
穴居生活
住居は下に、田畑は上に
建築家としての自然
引き算による建築
イタリアの丘陵都市
モデル的な丘陵都市
水の都市
遊牧民の建築
原始的な形態
都市の構造
古典的風土性
アーケード
半ば覆われた街路
小規模の穀倉
象徴的風土性
草の構造体
牧歌的建築
可動建築
民芸的妙技/他
- ISBN-104306051846
- ISBN-13978-4306051843
- 出版社鹿島出版会
- 発売日1984/1/25
- 言語日本語
- 本の長さ172ページ
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商品の説明
著者について
[著者]
バーナード・ルドフスキー
Bernard Rudofsky
1905年ウィーン生まれ。1935年以来中近東、南米、イタリア、日本等の諸都市に住む。建築家、批評家、随筆家。1988年没。
主著に『人間のための街路』平良敬一・岡野一宇訳(1973年)、『キモノ・マインド』新庄哲夫訳(1973年)、『みっともない人体』加藤秀俊・多田道太郎訳(1979年)、『驚異の工匠たち』渡辺武信訳(1982年)、『さあ横になって食べよう』多田道太郎監修・奥野卓司訳(1985年、いずれも鹿島出版会)等がある。
[訳者]
渡辺武信(わたなべ・たけのぶ)
1938年横浜生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。同修士・博士課程修了。1971年渡辺武信設計室を開設。日本建築家協会住宅部会名誉会員。
著訳書に『渡辺武信詩集』(1970年、思潮社)、『住まい方の思想』(1983年)、『住まい方の演出』(1988年)、『住まい方の実践』(1997年、いずれも中公新書)、A・ウォーカー著『スターダム』(1988年、フィルムアート社)、M・ポーリー著『バックミンスター・フラー』(共訳、1988年、鹿島出版会)、『銀幕のインテリア』(1977年、読売新聞社)、『日活アクションの華麗な世界』(2004年、未来社)、『続・渡辺武信詩集』(2007年)、『移動祝祭日―ー凶区へそして凶区から』(2010年、いずれも思潮社)等。
バーナード・ルドフスキー
Bernard Rudofsky
1905年ウィーン生まれ。1935年以来中近東、南米、イタリア、日本等の諸都市に住む。建築家、批評家、随筆家。1988年没。
主著に『人間のための街路』平良敬一・岡野一宇訳(1973年)、『キモノ・マインド』新庄哲夫訳(1973年)、『みっともない人体』加藤秀俊・多田道太郎訳(1979年)、『驚異の工匠たち』渡辺武信訳(1982年)、『さあ横になって食べよう』多田道太郎監修・奥野卓司訳(1985年、いずれも鹿島出版会)等がある。
[訳者]
渡辺武信(わたなべ・たけのぶ)
1938年横浜生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。同修士・博士課程修了。1971年渡辺武信設計室を開設。日本建築家協会住宅部会名誉会員。
著訳書に『渡辺武信詩集』(1970年、思潮社)、『住まい方の思想』(1983年)、『住まい方の演出』(1988年)、『住まい方の実践』(1997年、いずれも中公新書)、A・ウォーカー著『スターダム』(1988年、フィルムアート社)、M・ポーリー著『バックミンスター・フラー』(共訳、1988年、鹿島出版会)、『銀幕のインテリア』(1977年、読売新聞社)、『日活アクションの華麗な世界』(2004年、未来社)、『続・渡辺武信詩集』(2007年)、『移動祝祭日―ー凶区へそして凶区から』(2010年、いずれも思潮社)等。
登録情報
- 出版社 : 鹿島出版会 (1984/1/25)
- 発売日 : 1984/1/25
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 172ページ
- ISBN-10 : 4306051846
- ISBN-13 : 978-4306051843
- Amazon 売れ筋ランキング: - 203,181位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 2,310位建築 (本)
- - 20,683位科学・テクノロジー (本)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2020年7月18日に日本でレビュー済み
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2018年7月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
写真は全て白黒だが、とにかく枚数が多く、写真メインの本になっている。それが見やすくて良い。
かなりの良本だと思う。値段だけ見ると高めだが、コスパはめちゃくちゃ良い。おすすめします。
かなりの良本だと思う。値段だけ見ると高めだが、コスパはめちゃくちゃ良い。おすすめします。
2016年2月22日に日本でレビュー済み
世界各地の自然発生的な建築や集落などをまとめた本。
「何だろう、これは?」と思うようなインパクトのある写真も多く、見ていて楽しかったです。
解説を読むと、それぞれに理由があることが分かり、勉強になりました。
新潮文庫からでている「へんないきもの」シリーズの建築版のような本(?)
「何だろう、これは?」と思うようなインパクトのある写真も多く、見ていて楽しかったです。
解説を読むと、それぞれに理由があることが分かり、勉強になりました。
新潮文庫からでている「へんないきもの」シリーズの建築版のような本(?)
2009年6月26日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
本書で紹介されている想像を超えた都市の姿に、
知らず知らずのうちに身に付けてしまった自分の狭い思考の枠組みを思い知らされ、
普段いかに固い頭で考えているのかということに気付かされました。
表紙の裏の
「私たちの建築的な偏見を探検する旅の出発点を示す」
という言葉がじっくりと身体に染みてきます。
知らず知らずのうちに身に付けてしまった自分の狭い思考の枠組みを思い知らされ、
普段いかに固い頭で考えているのかということに気付かされました。
表紙の裏の
「私たちの建築的な偏見を探検する旅の出発点を示す」
という言葉がじっくりと身体に染みてきます。
2003年10月4日に日本でレビュー済み
本書では暮らしのなかで自然発生的に成立発展した伝統的な集落・建築を「建築家なしの建築」とよび、世界各地の「建築家なしの建築」を紹介している。例えば、日本では島根の「防風林に囲まれた住居」などがある。白黒ではあるが、ほとんどすべての事例が写真とともに紹介され、見ていると旅に出たくなった。
冒頭で著者はこう述べる。「風土的な建築は流行の変化に関わりがない。それは完全に目的にかなっているのでほとんど不変であり、まったく改善の余地がないのである。」
冒頭で著者はこう述べる。「風土的な建築は流行の変化に関わりがない。それは完全に目的にかなっているのでほとんど不変であり、まったく改善の余地がないのである。」