アン・タイラーの本の中ではちょっと長いかなという感じの1冊だった。いくばくかの退屈を抱えながら読んでいると、「ディーリア、私、あなたと話ができてうれしい。なぜだか、わかる? あなたって、自分の経験をもちだして人の話の腰を折ったりしないからよ」(P349)というような妙に感心するセリフもあって、油断がならないのだが。
「お宅ってみんな……変わってますよ。いっしょに何かやったりしないし。おばさんもそうだけど、ひとりで生きてるっていうか。(中略)人のことに深く立ち入らないで、表面をなめらかにして。うわべをつくろって。ちゃんと説明しない」と言われた主人公のディーリアが、「でも私には、そういうの、欠点というより長所に思えるけどね」(P511)と言うのもいい。
あるいはナットという人物が、クリスマス・ディナーの用意がしてある食堂のテーブルに男が一人で座っている写真について、それがいかに幸せな情景であるかを語るくだりも好きだ。「実際に息子たちや娘たちが到着すると、どっちの肉が多い大きいとか口論して、孫たちの行儀が悪いと叱って、十五年も前の恨みごとをもちだして、赤ん坊が泣きわめいて、みんな頭が痛くなる。そうなる前のほんのつかのま」(P528)
とまあ、好きな場面やセリフを挙げればそれなりにあるのだが、残念ながら小説としてはいささか退屈だったというのが正直な感想である。あとAmazonの商品説明は、あらすじを最後まで書いちゃってるので(こんな文章どこから引用したのだろう? ぶつぶつ)事前に読まないほうがいいです。
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歳月のはしご (文春文庫 タ 9-4) 文庫 – 2001/8/1
子供三人、四十歳、幸せなのに満たされない主婦が、突然見知らぬ町へ旅に出た──。九五年度タイム誌ベストブック、待望の文庫化
- 本の長さ543ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2001/8/1
- ISBN-104167527839
- ISBN-13978-4167527839
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商品の説明
商品説明
家庭のなかでなんとなく心が満たされない中年女性が、ある日はっきりとした理由もなく家出をし、見知らぬ土地でひとり新しい生活を築いていく姿を描いた作品。決して深刻な内容ではなく、ストーリーは上品で軽やかなユーモアに包まれていて、むしろ笑わせてくれるくらいである。著者は1941年ミネソタ州生まれ。1988年に『ブリージング・レッスン』でピューリッツァー賞を受賞。本書はタイム誌の1995年度フィクション・ベスト5のひとつに選ばれている。
40歳の主婦ディーリア・グリンステッドは、家族が自分の存在を疎ましいと思っているように感じていた。何も不自由のない日常生活のなかで、しかし鬱屈していったディーリアは、家族で海水浴に出かけたとき、そのままふらっと家出をしてしまう。そして初めての町ベイバラに降り立つと、自力で新しい生活を築き、友だちの輪をつくりあげていく。
赤の他人とはうまくいくのに、本当の家族とはうまくいかないというのは、アン・タイラー作品で繰り返されるテーマのひとつである。後半、彼女は自分の家庭へと戻ってくる。まるで何事もなかったかのように、いつもの日常の雑踏に溶け込んでいくディーリア。家出をしたのはちょっとの間、家庭を離れ生活をリセットしてみたかっただけなのだろう。そして物語は唐突過ぎるくらいにあっさりと終わってしまう。まるで、ディーリアの行動を安易に結論付けするのを避けるかのように。だがそのおかげで、この本は大人のメルヘンとして、読み終わったあともその余韻を楽しむことができるだろう。(文月 達)
登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2001/8/1)
- 発売日 : 2001/8/1
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 543ページ
- ISBN-10 : 4167527839
- ISBN-13 : 978-4167527839
- Amazon 売れ筋ランキング: - 801,113位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年10月21日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
夫は医師、3人の子どもを持つ40歳の主婦ディーリアは平凡な日々を送っていた。
毎年恒例の家族での海岸行きの旅行のおり、ディーリアは浜辺を散歩中、なんとなくそのまま家族のもとから姿を消してしまう。
そして流れ着いた町で新しい生活を始めたディーリアは周囲の人々とのかかわりを深めていくが…。
何気ない日常の連続だが、500ページを超える大著を支えているのは詳細な情景描写、心象風景だろう。
ときに身勝手ともおもえるディーリアに腹を立てたり、あるいは逆に同情したりと、まんまと感情移入してしまう。
読後なんとなくゾラの『居酒屋』を思い出してしまったが、印象としては映画を見ているような小説だった。
毎年恒例の家族での海岸行きの旅行のおり、ディーリアは浜辺を散歩中、なんとなくそのまま家族のもとから姿を消してしまう。
そして流れ着いた町で新しい生活を始めたディーリアは周囲の人々とのかかわりを深めていくが…。
何気ない日常の連続だが、500ページを超える大著を支えているのは詳細な情景描写、心象風景だろう。
ときに身勝手ともおもえるディーリアに腹を立てたり、あるいは逆に同情したりと、まんまと感情移入してしまう。
読後なんとなくゾラの『居酒屋』を思い出してしまったが、印象としては映画を見ているような小説だった。
2014年2月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
とあるテーマで取り上げ有られていた本だが、参考にはならない。文芸作品としての評価はどうかと思う。
2016年2月6日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
そのつもりはなかったのに、家を出てしまって一人でひっそりと暮らし始める妻。誰に会うのも避けるようにして暮しはじめるのですが、ここのところは、ホーソンやポールオースターを想わせて、面白かったですが、後はそんなに面白く感じませんでした、アンタイラーはやはり孤独を追及するというよりも、人とのつながりを重視する作家ですね。
2013年6月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
アン・タイラーらしい小説だ。平凡な主婦がふとうしろを振り返り、そしてそのまま今の生活を捨てて後戻りする物語である。
過去の好きな人に会ったり、過去の過ちを悔い改めるといったそうした物語ではない。そうしたある種の冒険活劇ではなく、ただ主婦がいまの生活を捨てて新たに平凡な生活を始めるだけだ。それは実にアン・タイラーらしい小説である。
ただ私は読んでいて少々中だるみ感を覚えた。いまの生活を捨てたわりには、結局また平凡な生活を送るという、主人公的にはそれがやりたかったんだろうが私にはそうした物語が退屈に感じてしまった。もちろん驚くような展開を期待していたわけではないが、あまりにも平凡すぎる生活にこれでは出て行った意味がないのではないかと読んでいて思ったのだ。
ただ最後、この物語全体を象徴する言葉に出会った。最後、主人公の夫がふいに「タイム・トリップ」という言葉を呟く。
それでわかったのは、これは主人公のタイム・トリップする話だったということだ。もちろんSF小説ではないので実際過去に戻ったわけではなく、主人公の彼女は家を出たことによって年齢も姿形もいまのまま結婚し、子供を産む前に戻り、やりたかった人生、結婚せずに送るかもしれなかった人生を送ったということだ。
タイムマシンはないが、人は過去に戻ろうと思えば戻ることができる、もっとも戻ったところでいまより幸せになれる保証はないが、でも戻れるのだとこの言葉を受け私は思い、そしてこの小説は切ない物語だったのではないかと感じた。
過去の好きな人に会ったり、過去の過ちを悔い改めるといったそうした物語ではない。そうしたある種の冒険活劇ではなく、ただ主婦がいまの生活を捨てて新たに平凡な生活を始めるだけだ。それは実にアン・タイラーらしい小説である。
ただ私は読んでいて少々中だるみ感を覚えた。いまの生活を捨てたわりには、結局また平凡な生活を送るという、主人公的にはそれがやりたかったんだろうが私にはそうした物語が退屈に感じてしまった。もちろん驚くような展開を期待していたわけではないが、あまりにも平凡すぎる生活にこれでは出て行った意味がないのではないかと読んでいて思ったのだ。
ただ最後、この物語全体を象徴する言葉に出会った。最後、主人公の夫がふいに「タイム・トリップ」という言葉を呟く。
それでわかったのは、これは主人公のタイム・トリップする話だったということだ。もちろんSF小説ではないので実際過去に戻ったわけではなく、主人公の彼女は家を出たことによって年齢も姿形もいまのまま結婚し、子供を産む前に戻り、やりたかった人生、結婚せずに送るかもしれなかった人生を送ったということだ。
タイムマシンはないが、人は過去に戻ろうと思えば戻ることができる、もっとも戻ったところでいまより幸せになれる保証はないが、でも戻れるのだとこの言葉を受け私は思い、そしてこの小説は切ない物語だったのではないかと感じた。
2004年1月16日に日本でレビュー済み
~本作では人生を「はしご」にたとえています。生きるとは、「歳月のはしごをのぼること」。でも、もくもくとのぼっていたはしごが、ほんとうは自分ののぼりたかったものではないと気づいたら、、、 主人公ディーリアは、ひょいと隣の「はしご」に飛び移ってしまうのです。
~~
だれでも人生をリセットしたいと思うことがあると思います。なに不自由なく生きてきたのに、とりたてて不満があるわけでも、大きな挫折を経験したわけでもないのに、それでもほかに人生があったのではないかと思ってしまうことが。タイラーは、リセットしてしまった本人と、それに振り回される家族とを、優しい目で描いています。彼女のいつものペーソスたぷ~~りで。~
~~
だれでも人生をリセットしたいと思うことがあると思います。なに不自由なく生きてきたのに、とりたてて不満があるわけでも、大きな挫折を経験したわけでもないのに、それでもほかに人生があったのではないかと思ってしまうことが。タイラーは、リセットしてしまった本人と、それに振り回される家族とを、優しい目で描いています。彼女のいつものペーソスたぷ~~りで。~
2001年10月14日に日本でレビュー済み
主人公ディーリアの姉は、彼女のことをこう言う。「妹は猫の生まれ変わりかもしれない」 猫のようにしなやかで自由な人生、それは誰もが望んでやまないもの・・・。主婦ディーリアの突然の家出は、失踪というよりプチ家出という様相だが、彼女と同世代の私達の家出願望を、見事にくすぐってくれる。ふっと消えたくなった時読むのに最適な、アン・タイラーの秀作!
2002年11月19日に日本でレビュー済み
アン・タイラーの作品はどれも本当に素晴らしい。この作品も日常に飽き飽きしたアメリカのごく普通のオバサンが家出するお話ということで、男性読者としては初め手にとることが躊躇されたものの、読み始めたら一気にページをめくってしまった。
プロットがどうとか、テーマがどうとかいう問題ではなく、アン・タイラーの素晴らしさはストーリー・テリングのずば抜けた巧さにある。
したがってどの作品を読んでも、日本の作家でいえば村上春樹のように「読みやすいけれど、どの話も何だかおんなじ感じ」を受けるかもしれない(ただし村上ほど自意識というか自分へのこだわりみたいなものは殆どない・・・むしろアン・タイラーは慈愛に満ちた冷静な観察者である)。胸を抉るような深さはなくとも、実に微妙な、それでいて誰もが共感できるような心に残るシーンが次々と絶妙の語り口によって繰り出され、読み終えた後にはいつもなんともいえない充足感に満たされるのである。
彼女の作品からは、(飛躍が過ぎるかもしれないが)スペインの宮廷画家ベラスケスが描いた、宮廷に仕える者や一般市民といった人物画が感じさせる、「普通の」人間への計り知れない愛情のようなものを感じるのである。
プロットがどうとか、テーマがどうとかいう問題ではなく、アン・タイラーの素晴らしさはストーリー・テリングのずば抜けた巧さにある。
したがってどの作品を読んでも、日本の作家でいえば村上春樹のように「読みやすいけれど、どの話も何だかおんなじ感じ」を受けるかもしれない(ただし村上ほど自意識というか自分へのこだわりみたいなものは殆どない・・・むしろアン・タイラーは慈愛に満ちた冷静な観察者である)。胸を抉るような深さはなくとも、実に微妙な、それでいて誰もが共感できるような心に残るシーンが次々と絶妙の語り口によって繰り出され、読み終えた後にはいつもなんともいえない充足感に満たされるのである。
彼女の作品からは、(飛躍が過ぎるかもしれないが)スペインの宮廷画家ベラスケスが描いた、宮廷に仕える者や一般市民といった人物画が感じさせる、「普通の」人間への計り知れない愛情のようなものを感じるのである。