絵を描くことに生きがいを覚える少女が、上士の娘であるが故に思い通りにならない十代二十代を過ごす。
作品の序盤は、その思い通りにならなかった22年間がスピーディな筆の運びで語られ、
本編では、主人公・明世のその後の生き方がゆっくりと描かれる。
夢中になれるものは見つけたが、いつも誰かに見張られ、こそこそ生きてきた、そんな女の話である。
夫が死に義父が死に、残された一人息子と姑を支えて零落した婚家を切り盛りしながら、
ようやく訪れた自分の時間を大切に過ごす明世。
幼なじみでもある画塾仲間との再会と交流、14歳になり当主として出仕する息子の成長ぶりが見どころ。
この小説には章の区切りがなく、ところどころ空行があるだけなので少々読みづらいが、
時間に流されず絵に対する主人公の思いが連綿と続いていることを表しているものか。
幕末の慌ただしい時代の話だが、時間をゆっくり流しながら読者を引き込んで行く。
やはり乙川作品は長編に限る。
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冬の標 (文春文庫 お 27-3) 文庫 – 2005/12/6
乙川 優三郎
(著)
維新前夜。封建の世のあらゆるしがらみを乗り越えて、南画の世界に打ち込んだ一人の女性の葛藤と成長を深く描いた感動の時代小説
- 本の長さ372ページ
- 言語日本語
- 出版社文藝春秋
- 発売日2005/12/6
- ISBN-104167141655
- ISBN-13978-4167141653
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登録情報
- 出版社 : 文藝春秋 (2005/12/6)
- 発売日 : 2005/12/6
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 372ページ
- ISBN-10 : 4167141655
- ISBN-13 : 978-4167141653
- Amazon 売れ筋ランキング: - 583,122位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- カスタマーレビュー:
著者について
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1953(昭和28)年、東京生れ。千葉県立国府台高校卒。’96(平成8)年に『薮燕』でオール讀物新人賞、’97年に『霧の橋』で時代小説大賞、 2001年に『五年の梅』で山本周五郎賞、’02年に『生きる』で直木賞、’04年に『武家用心集』で中山義秀文学賞をそれぞれ受賞。(「BOOK著者紹介情報」より:本データは『 さざなみ情話 (新潮文庫) (ISBN-13: 4101192243 )』が刊行された当時に掲載されていたものです)
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2007年11月24日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2019年9月8日に日本でレビュー済み
末高明世(まつたかあきよ)は幕末の上士の家に生まれ、幼いころに南画塾の塾生となる。絵描きとなる夢は高じるものの、おなごは嫁してこそ、の世の習いで馬島という名の家に嫁ぐことに。家を守り、夫と舅姑に尽くす日々を送りながらも、絵への熱は冷めることはなかった。画塾の相弟子、平吉と光岡修理との交流は細く長く続いていたが、それも保守派と勤王派の争いの中で大きく揺らいでいくことになる……。
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下総の利根川地域に暮らした閨秀画家が主人公の小説です。
時代設定は幕末。ペリーの浦賀来航、秩父の農民一揆、長州征伐、天下も藩内も佐幕か勤王かで二分される慶応の世に、そうした男たちの政治の世界とは一線を画した――あるいは政治の世界への参画をまだ許されていなかった――女性の凛とした決意を描く物語といえます。
男が作った世の習わしの域内で生きることを求められていた女性が、時代の移り変わりを予感させる幕末とはいえ、それでもその域外に出るにはまだ相当な覚悟が要ります。「女は耐えて当然の世の中であった」(305頁)のです。
しかしこの物語の中で繰り返し描かれるのは、一度生まれたからには、その人生を生き抜いてみたいというゆるぎない思いです。明世の胸の内にその思いを形作らせていくのが、姑そでの存在でした。男の作った域内で生きてきたそでが老いてたどり着いた思いは、生き抜いてこなかったという憾悔(かんかい)の念です。
「女にも二通りあるようです、わたくしのように流されるまま何もできずに終わる人と、藁を摑んでも思うほうへ泳ぐ人と……」(306頁)
嫁である明世が打ち込めるものを持つことへのそでの羨望が、明世をさらに前へと泳ぐことを促していきます。頑迷固陋にしか見えなかった姑もまた、男の作った<域>の犠牲者であったことが見えてきて、物語がいっそう深まります。
最後に明世が思い定めた<大事>は、あの時代に女がひとり生きることの厳しさを浮き立たせます。しかしそれでも物語の幕切れの明世はまだ三十八歳。世の移り変わりとともに、自身も変われる十分な時間が明世にはまだあるはずです。だからこそ物語の結尾の情景は、厳しい冬景色の中に描かれながらも、清々しく凛々しいものとして輝いて見えます。
決意ある女の姿は美しい――そう思える時代小説です。
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下総の利根川地域に暮らした閨秀画家が主人公の小説です。
時代設定は幕末。ペリーの浦賀来航、秩父の農民一揆、長州征伐、天下も藩内も佐幕か勤王かで二分される慶応の世に、そうした男たちの政治の世界とは一線を画した――あるいは政治の世界への参画をまだ許されていなかった――女性の凛とした決意を描く物語といえます。
男が作った世の習わしの域内で生きることを求められていた女性が、時代の移り変わりを予感させる幕末とはいえ、それでもその域外に出るにはまだ相当な覚悟が要ります。「女は耐えて当然の世の中であった」(305頁)のです。
しかしこの物語の中で繰り返し描かれるのは、一度生まれたからには、その人生を生き抜いてみたいというゆるぎない思いです。明世の胸の内にその思いを形作らせていくのが、姑そでの存在でした。男の作った域内で生きてきたそでが老いてたどり着いた思いは、生き抜いてこなかったという憾悔(かんかい)の念です。
「女にも二通りあるようです、わたくしのように流されるまま何もできずに終わる人と、藁を摑んでも思うほうへ泳ぐ人と……」(306頁)
嫁である明世が打ち込めるものを持つことへのそでの羨望が、明世をさらに前へと泳ぐことを促していきます。頑迷固陋にしか見えなかった姑もまた、男の作った<域>の犠牲者であったことが見えてきて、物語がいっそう深まります。
最後に明世が思い定めた<大事>は、あの時代に女がひとり生きることの厳しさを浮き立たせます。しかしそれでも物語の幕切れの明世はまだ三十八歳。世の移り変わりとともに、自身も変われる十分な時間が明世にはまだあるはずです。だからこそ物語の結尾の情景は、厳しい冬景色の中に描かれながらも、清々しく凛々しいものとして輝いて見えます。
決意ある女の姿は美しい――そう思える時代小説です。
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2021年7月22日に日本でレビュー済み
清心?の孤高をくどいほど繰り返えせる執念が、この作家の特質なのか?
我慢して読了した。
我慢して読了した。
2006年12月26日に日本でレビュー済み
「丁寧に生きる」
この小説に出てくる言葉だ。乙川作品のほとんど全てに描かれているのは、この精神だと思う。著者は、どんな境遇に於いても丁寧に生きようとする人を讃える。また、仕事に関して、それが芸術に近い物であれ、単純作業に近い物であれ、精緻な描写を行って読者を引き込み、人にとって仕事とは何かを無意識に考えさせる。著者が意図しているか否かは別として、そう思えてならない。表紙の絵は雪の中の2羽の烏。読み始める前には意味が解らなかったが、読後にもう一度見ると、思わず見入ってしまった。烏の視線までも気になった。
この小説に出てくる言葉だ。乙川作品のほとんど全てに描かれているのは、この精神だと思う。著者は、どんな境遇に於いても丁寧に生きようとする人を讃える。また、仕事に関して、それが芸術に近い物であれ、単純作業に近い物であれ、精緻な描写を行って読者を引き込み、人にとって仕事とは何かを無意識に考えさせる。著者が意図しているか否かは別として、そう思えてならない。表紙の絵は雪の中の2羽の烏。読み始める前には意味が解らなかったが、読後にもう一度見ると、思わず見入ってしまった。烏の視線までも気になった。
2003年3月16日に日本でレビュー済み
不自由なく過ごした少女時代、明世は城下の有休舎で葦秋の元、陽次郎、平吉らと南画を習い始めが、結婚を機に画から遠ざかることになる。幕末を舞台に画に生きた1人の女性を描いた物語、静謐とした筆運びで淡々と進む物語はむしろ爽快であった
2009年5月1日に日本でレビュー済み
一気に読みました。
悲しかったー。
今の世の片田舎にも通じる雁字搦めの生活、
したくもない結婚、出産、夫との死別、家に縛られ義夫を看取り、忍ぶ恋愛、義母との長い長い確執、などなど。
そんな縛られた生活のかなでも絵を描くことを辞めなかった執念。
幼き頃、南画を志す身分の違う少年、少女3人が成長していく過程、幕末の世に翻弄されながら各々違う道へと流れていく。いずれも哀れで、読みながら一生懸命少年、少女を応援しちゃいました。
20年後3人が再会し書画会を開くが、そこの出品する絵一枚一枚を文章から想像しましたが、是非どんなものか見てみたい気がしました。
勤皇派急先鋒の光岡修理の「逆の葱」は、想像しただけでも笑っちゃいますが是非見たかったですね・・・。
世の「仕来(しきた)り」&時代との葛藤物語。
いずれの世も生き難いものでござる。
悲しかったー。
今の世の片田舎にも通じる雁字搦めの生活、
したくもない結婚、出産、夫との死別、家に縛られ義夫を看取り、忍ぶ恋愛、義母との長い長い確執、などなど。
そんな縛られた生活のかなでも絵を描くことを辞めなかった執念。
幼き頃、南画を志す身分の違う少年、少女3人が成長していく過程、幕末の世に翻弄されながら各々違う道へと流れていく。いずれも哀れで、読みながら一生懸命少年、少女を応援しちゃいました。
20年後3人が再会し書画会を開くが、そこの出品する絵一枚一枚を文章から想像しましたが、是非どんなものか見てみたい気がしました。
勤皇派急先鋒の光岡修理の「逆の葱」は、想像しただけでも笑っちゃいますが是非見たかったですね・・・。
世の「仕来(しきた)り」&時代との葛藤物語。
いずれの世も生き難いものでござる。