25年前に日本語の美に挑戦すべくさっそうと登場した作家三枝昴星 (小説の主人公) であるが、年齢とともに繊細な美に分け入る集中力が劣化していく。けれども、最後にもう一度、執念の作品を上梓したいと思っている、そう、「完璧に美しい小説」、つまりジョン・ウィリアムスの小説「ストーナ-」のような。
三枝による最後の試みが次の小説である、というように設定された乙川優三郎の最新作「この地上において私たちを満足させるもの」(新潮社) が昨年12月に出版された。三枝の、しかしそういってよければ乙川優三郎自身が、青春から朱夏にかけて世界の貧困街を放浪したその経験を小説空間に再現した傑作であり、そして深く「老い」を考えさせる文学である。
「光洋(三枝の小説の主人公) は今も鮮やかな旅の情景を思い浮かべた。・・・しかし、知っていることと書くことは別であった。文才と修練の不足が致命的な瑕疵に思えることがあって、書くことのあてどなさに流され、駄文の海にたゆたいもする。張りつめていた気持ちが拉げる(ひしげる)と、その先は長い迷路であった」。老齢にさしかかり、小説と向き合う力を失いつつある中で妻を失い、光洋はさらに絶望の深みに沈み込む。書きたいという最後の埋火の消え入る瞬間に訪れたタヒチの自然は、しかし、光洋を再び覚醒させるのである。
乙川は自らの青春時代に世界を放浪した。特にそれぞれの国でしばしの住みかとした貧困街とそこに住む人達との交流をこの小説の中でくっきりと浮かび上がらせた。それは、すべての読者に形は違うものの、あの頃あの場所で日常や旅の冒険に飛び込んだ青春時代を強烈に思い出させ、その冒険の意味を考えさせる。そして、玄冬にさしかかった今、なにも成し遂げえなかった人生の最後に、しかしひとつだけはやり遂げたい、と思わせる勇気を与えてくれる。
房総半島の御宿を終の棲家としたボヘミアン乙川優三郎の自伝的長編である。
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この地上において私たちを満足させるもの 単行本 – 2018/12/21
乙川 優三郎
(著)
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戦後の房総半島からヨーロッパ、アジア、そして日本で。そこでは灰色の人生も輝き、沸々と命が燃えていた。あのとき、自分を生きる日々がはじまった――。縁あって若い者と語らううち、作家高橋光洋の古い記憶のフィルムがまわり始める。戦後、父と母を失い、家庭は崩壊、就職先で垣間見た社会の表裏、未だ見ぬものに憧れて漂泊したパリ、コスタ・デル・ソル、フィリピンの日々と異国で生きる人々、40歳の死線を越えてからのデビュー、生みの苦しみ。著者の原点と歳月を刻む書下ろし長篇。
- 本の長さ256ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2018/12/21
- 寸法14 x 2.5 x 19.7 cm
- ISBN-104104393096
- ISBN-13978-4104393091
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2018/12/21)
- 発売日 : 2018/12/21
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 256ページ
- ISBN-10 : 4104393096
- ISBN-13 : 978-4104393091
- 寸法 : 14 x 2.5 x 19.7 cm
- Amazon 売れ筋ランキング: - 398,409位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 109,557位文学・評論 (本)
- カスタマーレビュー:
-
トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2023年10月7日に日本でレビュー済み
時々ある、日本の男性が期せずして人助けをしたり放浪したりする話ではあります。
なんか沢木耕太郎の元ボクサーの話と似てるな。
当方、この、ヒロイズムというのかなんなのかほんとに耐えられません。
それからこれだけは言っておきます。p243、長湯をしてのぼせて倒れた養女を助けてベッドに運び、
気付いた養女が誤解をした場面で
「風呂場で倒れたことを忘れたか、日本の父親には娘の裸を見る権利がある、」とありますが、
ない!!
そんな権利ないぞ!!!この作家は本気でそう思ってるのか?
この場面でこれか、全身総毛立ったわ!
なんか沢木耕太郎の元ボクサーの話と似てるな。
当方、この、ヒロイズムというのかなんなのかほんとに耐えられません。
それからこれだけは言っておきます。p243、長湯をしてのぼせて倒れた養女を助けてベッドに運び、
気付いた養女が誤解をした場面で
「風呂場で倒れたことを忘れたか、日本の父親には娘の裸を見る権利がある、」とありますが、
ない!!
そんな権利ないぞ!!!この作家は本気でそう思ってるのか?
この場面でこれか、全身総毛立ったわ!
2019年2月24日に日本でレビュー済み
71歳になる小説家・高橋光洋は病を得て手術を終えたのち、外房に一軒家を得て暮らし始めている。体力をなくした今や、短編小説を書くのが専らとなり、身の回りの世話はフィリピン人の家政婦ソニアに任せている。光洋は幼き日からの来し方に思いを馳せ、かつて遠くヨーロッパやアジアをさすらったときの出逢いの記憶を呼び覚ましていく…。
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乙川優三郎の前作『 二十五年後の読書 』の中で、登場人物のひとりで作家の三枝昴星(さえぐさこうせい)は齢(よわい)を重ねた末に自他ともに拭えない筆の衰えを見せていきました。その三枝が、書き手としての煌めきを今一度放たんとして紡いだ物語が『この地上において私たちを満足させるもの』とされていました。その小説内小説を前作の中では書評家・中川響子が手にする姿は描かれるものの、その詳しい内容は私たち読者に対してつまびらかにされることはありませんでした。響子の眼に映った世界とはどんなものであったのか。そこへと分け入ることを願う思いを絶つことなど出来ようはずがありません。ようやく手にする機会を得ました。
この小説は連作短編集の装いをもっていて、章をたがえるごとに入れ替わる内外の土地を光洋が逍遥しながら出逢いと別れを繰り返す様が描かれます。各編が見せるのは、想像の埒外から光洋に訪れる縁(えにし)の妙です。それはひとり光洋にだけ与えられるものではありません。読者の誰しもが思い当たるような、ひとりひとりの人生における煌めく欠片の如きものといえます。
そして今読み終えて感じるのは、この小説内宇宙がまさに煌めくような日本語で綴られていたことです。豊かな調べを有した日本語は、読み手である私の心の底へと静かにゆっくりと沈み落ちていき、そしてそこに心地よく留まっていったのです。
「人にはそれぞれ生き方がある、自分という人間を生きる権利があるし、そのために闘う権利もある、【……】つまり百人の人間が百通りの可能性を自覚して生きたら、世の中はもっと面白くなる、意外な発展もするだろう、可能性の世界を道で考えてみると分かりやすい、古来人間はよくもまあこれだけ多くの道を作ったものだと思わないか、しかもまだ歩けるのだから徒労ではない」(53-54頁)
「パリという断崖にいる女の生きようを危なっかしくも気高くも感じた。自由こそ苦しく、なまじな才能ほど厄介で、執念こそ希望であった」(70頁)
「ダニエルは紛い物のサンダルを売り、マルタは資産家の邸を渡り歩く日常に還ってゆく。そのどれもが光洋には考えられない身過ぎであったが、自分という人間の業や棲息域をわきまえる彼らには最も健全な選択かもしれなかった。しかもそれは荒立つ心に任せてあまりに激しく愛し、あまりに多くを求め、その挙句すべてを磨り減らしてしまう男の人生よりも、遥かに挑戦的で美しい生き方に思われた」(104頁)
陶然とした思いを抱くことができる、なんとも心地よい読書を果たせました。
そして私はここに描かれた世界に似た小説をかつて読んだことを思い返しました。それは前作『二十五年後の読書』の中で書評家の響子がいみじくも手にしていた書でもあります。アメリカの作家ジョン・ウィリアムズが紡いだ『 ストーナー 』。農家の息子に生まれた主人公がやがて文学の魅力に取りつかれ、様々な出逢いと別れを経ていく静かな小説です。今から5年前に邦訳が出た際に帯に付された「“完璧に美しい小説”」との惹句が読者を裏切ることはありません。またこれが、訳者・東江一紀氏が命を削って仕上げた最後の訳業であったことも話題となりました。ストーナーという一人の男の「荒立つ心に任せる」ことなき人生の道程を静かに美しく描くところが、『この地上において私たちを満足させるもの』との通有点といえます。乙川が『ストーナー』を強く意識して筆を運んだに違いないことを私は勝手ながら想像し、ひとり笑みを浮かべました。
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乙川優三郎の前作『 二十五年後の読書 』の中で、登場人物のひとりで作家の三枝昴星(さえぐさこうせい)は齢(よわい)を重ねた末に自他ともに拭えない筆の衰えを見せていきました。その三枝が、書き手としての煌めきを今一度放たんとして紡いだ物語が『この地上において私たちを満足させるもの』とされていました。その小説内小説を前作の中では書評家・中川響子が手にする姿は描かれるものの、その詳しい内容は私たち読者に対してつまびらかにされることはありませんでした。響子の眼に映った世界とはどんなものであったのか。そこへと分け入ることを願う思いを絶つことなど出来ようはずがありません。ようやく手にする機会を得ました。
この小説は連作短編集の装いをもっていて、章をたがえるごとに入れ替わる内外の土地を光洋が逍遥しながら出逢いと別れを繰り返す様が描かれます。各編が見せるのは、想像の埒外から光洋に訪れる縁(えにし)の妙です。それはひとり光洋にだけ与えられるものではありません。読者の誰しもが思い当たるような、ひとりひとりの人生における煌めく欠片の如きものといえます。
そして今読み終えて感じるのは、この小説内宇宙がまさに煌めくような日本語で綴られていたことです。豊かな調べを有した日本語は、読み手である私の心の底へと静かにゆっくりと沈み落ちていき、そしてそこに心地よく留まっていったのです。
「人にはそれぞれ生き方がある、自分という人間を生きる権利があるし、そのために闘う権利もある、【……】つまり百人の人間が百通りの可能性を自覚して生きたら、世の中はもっと面白くなる、意外な発展もするだろう、可能性の世界を道で考えてみると分かりやすい、古来人間はよくもまあこれだけ多くの道を作ったものだと思わないか、しかもまだ歩けるのだから徒労ではない」(53-54頁)
「パリという断崖にいる女の生きようを危なっかしくも気高くも感じた。自由こそ苦しく、なまじな才能ほど厄介で、執念こそ希望であった」(70頁)
「ダニエルは紛い物のサンダルを売り、マルタは資産家の邸を渡り歩く日常に還ってゆく。そのどれもが光洋には考えられない身過ぎであったが、自分という人間の業や棲息域をわきまえる彼らには最も健全な選択かもしれなかった。しかもそれは荒立つ心に任せてあまりに激しく愛し、あまりに多くを求め、その挙句すべてを磨り減らしてしまう男の人生よりも、遥かに挑戦的で美しい生き方に思われた」(104頁)
陶然とした思いを抱くことができる、なんとも心地よい読書を果たせました。
そして私はここに描かれた世界に似た小説をかつて読んだことを思い返しました。それは前作『二十五年後の読書』の中で書評家の響子がいみじくも手にしていた書でもあります。アメリカの作家ジョン・ウィリアムズが紡いだ『 ストーナー 』。農家の息子に生まれた主人公がやがて文学の魅力に取りつかれ、様々な出逢いと別れを経ていく静かな小説です。今から5年前に邦訳が出た際に帯に付された「“完璧に美しい小説”」との惹句が読者を裏切ることはありません。またこれが、訳者・東江一紀氏が命を削って仕上げた最後の訳業であったことも話題となりました。ストーナーという一人の男の「荒立つ心に任せる」ことなき人生の道程を静かに美しく描くところが、『この地上において私たちを満足させるもの』との通有点といえます。乙川が『ストーナー』を強く意識して筆を運んだに違いないことを私は勝手ながら想像し、ひとり笑みを浮かべました。
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2019年2月9日に日本でレビュー済み
戦時中に東京から千葉に疎開した家に生まれ、幼い頃から家族の温もりよりも自分だけを頼みにする環境の中で育った主人公。必死で仕事をしながら世の中の裏を知り、不本意ながら手に入れたお金を手に世界を放浪する。
その時々の人々と深い関わりの中で、様々な人生を深く心に刻み込み、やがて作家になる。それぞれのエピソードが短編形式で書かれて読みやすい。私は特にパリに住む日本人画家を描いた「丘の上の下町」が心に残った。
人との出会いや別れ、日々の暮らしを端的な表現と深い感慨を込めて描いていく文章のすばらしさ。その旅の出会いが後年彼の人生を潤してくれる。主人公の作家としての歩みや真情が乙川さんと重なって見え興味深かった。
何気なく書かれる文章に時折はっとして、改めて味わうことが多かった。
その時々の人々と深い関わりの中で、様々な人生を深く心に刻み込み、やがて作家になる。それぞれのエピソードが短編形式で書かれて読みやすい。私は特にパリに住む日本人画家を描いた「丘の上の下町」が心に残った。
人との出会いや別れ、日々の暮らしを端的な表現と深い感慨を込めて描いていく文章のすばらしさ。その旅の出会いが後年彼の人生を潤してくれる。主人公の作家としての歩みや真情が乙川さんと重なって見え興味深かった。
何気なく書かれる文章に時折はっとして、改めて味わうことが多かった。
2019年2月21日に日本でレビュー済み
どこか硬く、硬質の本!と思いましたが、それは比喩を排除した作品ゆえでした。人物配置、バックにはカクテル、そして絶妙の地、再読したいと思わせる作品でした。ありがとうございました。