九十歳のラブレター

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 139
感想 : 12
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  • Amazon.co.jp ・本 (204ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103541516

作品紹介・あらすじ

あなたのいない毎日に、ぼくは慣れることができない。ある朝、あなたは突然逝った――。小学校の同級生であったあなたと結婚して六十余年、戦争体験、戦後間もなくのアメリカでの新婚生活、京都での家作り、世界中への旅、お互いの老化……たくさんの〈人生の物語〉を共有してきたあなたの死で、ぼくの人生は根底から変わってしまった。老碩学が慟哭を抑えて綴る愛惜の賦。

感想・レビュー・書評

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  • 著者、加藤秀俊さん(1930~2023)の作品、ブクログ登録は2冊目。

    本作の内容は、次のとおり。

    ---引用開始

    あなたのいない毎日に、ぼくは慣れることができない。ある朝、あなたは突然逝った――。小学校の同級生であったあなたと結婚して六十余年、戦争体験、戦後間もなくのアメリカでの新婚生活、京都での家作り、世界中への旅、お互いの老化……たくさんの〈人生の物語〉を共有してきたあなたの死で、ぼくの人生は根底から変わってしまった。老碩学が慟哭を抑えて綴る愛惜の賦。

    ---引用終了


    気になった箇所を一つあげると、p14から書かれている、1952年(昭和27年)5月1日の「血のメーデー事件」。

    当時の著者の年齢は22歳で、この時のデモ隊に参加。
    若かりし頃、著者は、何となく共産党員?という感じの共産党員。
    当時の共産党の勢いが感じられることが書かれているのが、興味深い。


    なお、血のメーデー事件は、ウィキペディアに、次のように書かれています。

    ---引用開始

    血のメーデー事件(ちのメーデーじけん)は、1952年(昭和27年)5月1日(木曜日)に東京の皇居外苑で発生した、デモ隊と警察部隊とが衝突した騒乱事件である。事件は一部の左翼団体が暴力革命準備の実践の一環として行ったものと見られている。戦後の学生運動で初の死者を出した。

    ---引用終了

  • ある朝、あなたは突然逝った…。
    著名な社会学者である著者が、小学校の同級生で70年近く連れ添った妻に、共に過ごした来し方の思い出を訥々と語りかける。叫び出したい思いを必死に堪えて。その一文一文が心に沁み込むようで、筆者が妻に向けた純粋なまでの愛と、先立たれた者の哀しみが胸に押し寄せてくる。これは本当に亡き「あなた」に向けた、狂おしいほどのラブレターなのだ。絶望の中からまた歩き出すために、著者は書かずにはいられなかったのだろう。

    この手記は二人の別れから始まる哀しい物語だ。さりとて、お二人のあり方は多くの夫婦にとって理想であろうし、私のような独身者にも憧れに似た感情を抱かせる。語弊はあるが、誠に羨ましい。

    よい本です。愛とは何か、連れ添うとはどういうことか、互いをケアするとはどういうことなのか、色々と思いを馳せるきっかけを与えてくれる。

  • 筆者はパートナーとの思い出を題材に自分の生きた証を記しているのだろうと思う。貧しい時代を生き抜いてきた世代ということもあり、その時代特有の苦労エピソードはたくさん書かれているが、もともと育ちが良い家庭の出の人の話なので、読者側からするとちょっと鼻につくところも多々あった。ただ老後の話になると、育ちの良さに関わらず誰もが直面する現実に対処しなければならず、結局のところ、育ちに恵まれていようがいまいが、時が来ればこの世を去らなくてはいけないのだなぁ、とちょっと感傷的になった。

  • 90近くまで互いが寄り添いつつ、更には愛し合っている。きっと人類皆が理想とする関係だろう。
    奥様も著者もとても文中だと穏やかな性格が描かれているがそれだけではなく、大きな決断力と挑戦力が大きく伝わってきた。
    この理想的な関係に至るまでには、互いの強さと決断力が互いの為に活かせ合えたことが何よりも大事なのだろうと考えさせられた。

  • 将来相方にそう思われるような穏やかな生き方をする人になりたいと思った。泣けて、ほっこりした。心が動いた。

  • 理想的な夫婦の姿。
    それだけに、別れがとても切ない。
    こんな夫婦になりたい。

  • ミニコメント
    どんなに仲の良い夫婦でも、いつかどちらかが独り残される――。老学者が急逝した妻へ綴る惜別の賦。理想的な〈昭和の夫婦〉の物語。

    桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/1295684

  • 読み終えて、考えたのは愛と死、と人生でした。
    戦争や変化の多い時期に生きたこの夫婦は、戦争によるトラウマも抱えたり、困難な時期に生きてこられてきたと思うのですが、その人生の中で愛する人と共に生きてきたことがずっと書いてあります。
    妻が亡くなったところから始まり、走馬灯のようにあの時「あなた」はこう言った、こうだった、などの回想が細かく書かれており、妻への愛をとっても感じました。
    こんなに愛し愛される夫婦は理想的と言えると思います。
    私も自分と夫で置き換えて考えたりしながら、とっても人の人生とは深く愛に溢れているのだなあと思いました。そして、こんな愛に溢れた人生でありたい、とも思いました。
    心に残っているのは、『ひとの一生というものはけっして連続する動画ではなく、身辺に散らばっているおびただしい数のスナップショットの集積であり、それらがあちこちで光を発してひとを呼び寄せてくれているもののごとくである。』という部分でした。
    死ぬ時に、自分が思い出す瞬間はどんな瞬間だろう?
    愛する人との1番のハイライトはなんだろう、
    そして、これからたくさんの幸せを感じ、たくさんやりたいことをやり、私も振り返る時に人生で何個もハイライトがあるといいなあ
    そんなふうに思いました。

  • 加藤秀俊著『九十歳のラブレター』(新潮社)
    2021.6発行

    2023.10.22読了
     筆者は著名な社会学者で、リースマンの『孤独な群衆』の翻訳者として知られる。
     筆者の著書はこれまで何冊か読んだことがあるが、ひらがなを多用した平易な記述が特徴的である。2023年9月20日に病気のため死去したことを知り、筆者最後の著作である本書を読む気になった。

     本書は、2019年9月16日に享年89歳で亡くなった妻・隆江さんとの思い出を綴ったものである。出会いから別れまでの思い出を綴った作品なのだが、筆者には申し訳ないが、あまり共感をもって読むことができなかった。
     妻・隆江さんは、植物園で観賞用として育てられている木の枝を勝手に折って家に持ち帰ったりするなど、規範意識の薄い人だったようだ。好き嫌いが激しく、あれこれと文句を並び立てては自分を正当化しようとするので、読んでいて不愉快な気分になってくる。
     筆者も88歳のときにブレーキとアクセルを踏み間違えて人身事故を起こしているのに、悪びれずその後も車を運転し続けるという老害ぶりで思わず閉口してしまった。
     二人とも若い頃は左翼運動に従事していたというから、さもありなんと妙に納得した。
     歳をとれば頑固になると言うし、怖いもの知らずにもなるとも言うが、お花畑な老後が送れて当人たちは幸せだったのだろう。羨ましいなと思う反面、こんな老害にはなりたくないなとも思ってしまった。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/031505545

  •  1930年生まれ、加藤秀俊さん、同年生まれの妻、隆江さんの突然死(2019.9.16、虚血性心不全)を受け、65年間共に過ごした愛妻との思い出(同じ小学校に通った頃からの話を含め)を細やかに綴った作品。まさに「九十歳のラブレター」(2021.6)。仲睦まじさのストレートな記述もいいですが、私は(今並行して読んでる)津村節子さんの吉村昭さんへの抑制の効いた思いがより好きです。

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著者プロフィール

加藤秀俊(かとう・ひでとし) 1930年東京生まれ。社会学博士。一橋大学(旧制)卒業。京都大学人文科学研究所助手、同教育学部助教授、学習院大学教授、放送大学教授、国立メディア開発センター所長、日本育英会会長などを歴任。現在、中部大学学術顧問、世界科学芸術アカデミー会員。 著書に、『加藤秀俊著作集』全12巻、『メディアの発生』『メディアの展開』(中央公論新社)など多数。

「2016年 『加藤秀俊社会学選集 下巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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