「小津安二郎と戦争」についてはある時期からいろいろな批評が書かれ、本になったが、遂に次のように語られることとなった。
《山中貞雄のように命を落とすことなく、無事に帰還できた小津は強運だった。以後、小津の映画は「戦争」を抜きにしてはありえなくなる。語り得ぬ「戦争」をいかに映画とするか。山内プロデューサーの言う「百年に一人」という映画監督、「百年に一人」という日本人に小津が成長するのには、「戦争」という巨大な協力者が介在していた。》
これは戦後の小津こそが小津であるという断言であろう(戦前の小津があってこそ戦後の小津があるとはいえ本書は主に戦後の小津作品を論の対象としている)。またこれは戦争が終わり、十年、二十年の歳月が経つなかで小津の評価が決定的なものではなかったことに関わる、というより小津の評価が決定的なものではなかったがゆえの、その後の評価(の集大成)である。
もちろん小津は、語り得ぬ「戦争」をいかに映画にすべきか、しゃちほこばって追い求めたわけではない。本書のなかで驚くのは、戦争で死んだ山中貞雄への「目配せ」への解読である。それはいたずらっぽくもあれば哀愁に満ちてもいるが、何より映画的な「目配せ」だった。映画が公開された当時、そうしたものが観るものに容易に伝わらなかったのは自然なことだった。
ところで著者は本書の最後のほうで《語り得ぬ「戦争」》についてだろうか、それを《「憐れな敗戦国」の「精神風景」》《その中に埋没させられた死者──山中貞雄や小津の戦友たち──への鎮魂の譜》といった言葉で要約しようとする。確かにそう言えるところはあるかもしれない。だがそう書いてしまうと、どこかしこりが残るところもある。少なくとも小津の戦後の映画の最上の部分は、そうした言葉を説明として拒んでいるような気がする。
それにしても残されたあらゆる資料を徹底的に渉猟した成果が本書にはある。 なかには辛辣な批判も引用される。脚本家水木洋子の『早春』評がそうだ。《ズベ公「キンギョ」の岸惠子は「実は古めかしい女」だ。池部との男女関係を追及するキンギョ吊るし上げ「査問」会は、「お家の不義を働いた腰元を満座の中ではずかしめるような時代くささ」も感じさせる。お好み焼屋で池部を誘惑する岸の、ビール瓶を取りのける「中年男のような段どり」は「若い娘としてはゴツイ」》と著者は水木の批評をまとめる。この「ゴツイ」がなんとも素晴らしい。
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小津安二郎 単行本 – 2023/3/29
平山 周吉
(著)
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第50回大佛次郎賞受賞!
NHK・ETV特集「生誕120年・没後60年 小津安二郎は生きている」で紹介。
小津のキャメラが捉える原節子の向こうには、戦死した天才・山中貞雄監督の存在があった。
世界に誇る傑作群の謎を解き明かす決定的評伝!
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鶏頭、麦畑、未亡人、粉雪、京都東山、龍安寺、そして壺……。
激動の戦後史の中で、名匠は画面のディテールに秘められた想いを託す。
生者と死者との間の「聖なる三角関係」が織り成す静寂の美の謎を解き明かす、決定的評伝!
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- 本の長さ400ページ
- 言語日本語
- 出版社新潮社
- 発売日2023/3/29
- 寸法19.1 x 13.2 x 2 cm
- ISBN-104103524723
- ISBN-13978-4103524724
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登録情報
- 出版社 : 新潮社 (2023/3/29)
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- 言語 : 日本語
- 単行本 : 400ページ
- ISBN-10 : 4103524723
- ISBN-13 : 978-4103524724
- 寸法 : 19.1 x 13.2 x 2 cm
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2024年4月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
・帯に「評伝」とあり、あとがきでは「小津と小津映画を昭和史の中に置いて見るという方法をとって」、「小津について書く」と明言する。従って純然たる小津映画論展開の書ではないが、代表作「東京物語」で笠智衆が演じた役名を、筆名にする程「のめり込んで」発見した数々に、徹底して拾い集めた素材を添えて論じる中には、小津映画を巡って繰り返されて来た諸論に、小津の慈しんだ『天才・山中貞夫映画監督へのオマージュ』視点で発見した、斬新な見方も混じっていて、単なる私論に留め難い納得感のある、読み進め甲斐のある書になっている。繰り返しや饒舌に過ぎる感じが多少は残るも、4百頁近くにギッシリ詰まった記述からは、著者の熱い思いが伝わって来、見方に様々論が立つにしても、小津ファンには、ある種集成の書として、棚に添えたくなると読んだ。
2023年4月28日に日本でレビュー済み
これまで小津といえば赤といわれてきたが、ここまで赤をふんだんに使った本が今まであっただろうか。
内容は言わずもがな、まず小津安二郎を想起させる本の佇まいに惹かれるのである。
内容は言わずもがな、まず小津安二郎を想起させる本の佇まいに惹かれるのである。
2023年8月20日に日本でレビュー済み
今まで読んだうちでは、個人的には小津安二郎の作家論としては「決定打」だと思います。
とりわけ、「紀子」三部作が友人山中貞雄への哀悼と鎮魂の譜だという考察は、
鳥肌ものでゾクゾクとさせられる。二人の出会いと支那事変の体験、作品中のカメラの移動と構図、
「紙風船」や「空」や「雁来紅」といった作品中の事物によってそのことを推論していく。
その作者の手続きには深く納得します。
また、各章がまるで映画のカットつなぎのように構成されていることにも共感した。
続編として「早春」以後の作品の小津の新しい試みに関する分析も読みたいと思う。
とりわけ、「紀子」三部作が友人山中貞雄への哀悼と鎮魂の譜だという考察は、
鳥肌ものでゾクゾクとさせられる。二人の出会いと支那事変の体験、作品中のカメラの移動と構図、
「紙風船」や「空」や「雁来紅」といった作品中の事物によってそのことを推論していく。
その作者の手続きには深く納得します。
また、各章がまるで映画のカットつなぎのように構成されていることにも共感した。
続編として「早春」以後の作品の小津の新しい試みに関する分析も読みたいと思う。