勇者は、ひどく赤面した。―太宰治「走れメロス」
下人の行方は、誰も知らない。―芥川龍之介「羅生門」
私の幻燈はこれでおしまいであります。―宮沢賢治「やまなし」
されど我脳裡に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり。―森鴎外「舞姫」
彼は、細君の大きな腹の中に七人目の子供を見た。―葉山嘉樹「セメント樽の中の手紙」
僕は我に返って一生懸命手をたたいている自分に気がついた。―安岡章太郎「サーカスの馬」
また、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。―中島敦「山月記」
もはや逃げ場所はないのだという意識が、彼の足どりをひどく確実なものにしていた。―山川方夫「夏の葬列」
「…きっとあたしのもと来た少女の道へ戻る案内人になってくれるに違いないのだ。」と思いながら…。―寺山修司「線の少女」
番人はまた、独りぼっちになった。―小川洋子「愛されすぎた白鳥」〔ほか〕